Re:ゼロから始める異世界生活の王選編には、紫の髪を品よく撫で付け、剣と精霊を同時に操る一人の騎士が立っている。周囲からは「最優の騎士」と呼ばれ、主君アナスタシア・ホーシンの絶対の信頼を受け、王国の近衛騎士団においても模範と仰がれる存在──その名はユリウス・ユークリウス。しかし物語は、この完成された騎士から一つだけ取り返しのつかないものを奪い取っていく。「名前」である。第五章水都プリステラ編、大罪司教『暴食』ロイ・アルファルドに名を食われた瞬間、主君も、親友も、同僚も、誰一人として彼を思い出せなくなった。完璧であったはずの騎士が、自分を証明する手段すべてを失い、それでもなお騎士であり続けようとする──本稿では、この「最優の騎士」であり同時に「名無しの騎士」でもあるユリウス・ユークリウスの正体を、原作に即して徹底的に解き明かしていく。

【重大ネタバレ警告】本記事はRe:ゼロから始める異世界生活の第三章「Truth of Zero」、第五章「水の都と英雄の詩」、第六章「プレアデス監視塔」の核心ネタバレを含む。第五章77話でユリウスが暴食の権能によって名を失うこと、以降『名無しの騎士』として周囲から忘れられ続けること、第六章90話時点でも名前が完全回復していないこと、ユークリウス家系の養子入りの事情に踏み込む。未読の読者は原作読了後の閲覧を推奨する。

ユリウス・ユークリウスとは──完璧な騎士という器

ユリウス・ユークリウスはRe:ゼロ本編において、「騎士とは何か」という問いを最も純粋な形で体現するキャラクターとして描かれている。ルグニカ王国近衛騎士団に所属し、王選候補者アナスタシア・ホーシンの一の騎士として仕える彼は、剣技・精霊術・礼儀・忠誠・人格のすべてを兼ね備えた模範的存在である。王国がその能力を認めて授けた「最優の騎士」の称号は、単なる武力最強の意味ではなく、騎士として到達しうる総合的な最高位を指す呼び名だ。

しかしRe:ゼロという作品は、この完璧さをそのまま祝福するような物語を描かない。第五章で彼の「名前」が大罪司教『暴食』に食われた瞬間、ユリウス・ユークリウスという存在は、周囲の記憶から一斉に消え去ることになる。完璧であったはずの騎士から、その完璧さを他者に証明する手段そのものが奪われる──この残酷な転倒こそ、ユリウスというキャラクターの物語の核心である。

項目内容
フルネームユリウス・ユークリウス
所属ルグニカ王国近衛騎士団/アナスタシア・ホーシンの一の騎士
称号最優の騎士
外見薄紫の髪、黄色系の瞳、整った容姿の青年騎士
一人称「私」
戦闘スタイル剣技と精霊術の併用。六色の準精霊を従える精霊騎士
加護誘精の加護(精霊を呼び寄せる加護)
アニメ声優江口拓也

外見と口調──絵画から抜け出たような騎士像

ユリウスの容姿は、王国騎士団の理想像をそのまま絵にしたかのような整い方をしている。薄紫の髪は乱れ一つなく整えられ、黄色系の端正な瞳が知性と品格を湛える。制服に身を包んだその姿は、儀式の舞台に立つためだけに誂えられたかのような優雅さを漂わせている。作中でも、他のキャラクターがユリウスを一目見て「貴族としての育ちの良さ」を感じ取る描写が繰り返される。

口調もまた彼を象徴する要素だ。一人称は「私」、語り口は常に丁寧で、相手が王選候補者であろうと自称騎士の少年であろうと、一貫して礼を失わない話し方を貫く。皮肉や風刺を交える時も、決して粗暴な言葉選びには陥らない。この徹底した品格の維持こそが、ユリウスが「最優の騎士」として認められる最大の条件であり、同時に彼が自分自身を縛る鉄の枷でもある。

ユークリウス家の複雑な家系──養子入りの騎士

ユリウスの出自を語るうえで外せないのが、ユークリウス家の入り組んだ家系事情である。原作Web版第六章6話「ユークリウスの銘」で語られるのは、ユリウスが「元々ユークリウス家の嫡男ではない」という事実だ。現当主アルビエロ・ユークリウスの実子ではなく、アルビエロの弟クライン・ユークリウス(故人)の子としてこの世に生を受け、後に本家へ養子として迎えられた──それがユリウスの出自の骨格となる。

さらに家には弟分としてヨシュア・ユークリウスが存在する。ヨシュアは作中で「ユリウスの弟」と扱われ、アニメ公式のキャラクター紹介でもその立場で記載される。しかし同じ第六章6話で、ユリウス自身が「プリステラに残したヨシュアの、実際の私との関係はわからない」「兄弟というのはあくまで言葉の綾で、本来の関係は従兄弟となるのかな」と内省する場面があり、第六章時点ではユリウスの認識そのものが揺らいでいる状態が描かれる。

【考察】名前を奪われた者の家族認識 ユリウスがヨシュアとの血縁関係を第六章で「わからない」と述べる背景には、暴食によって名を食われ自己の定位置が揺らいでいる状況が深く関わっている。本来であれば明確だったはずの家族関係の記憶が、他者からの承認が断絶したことで、本人の側から見ても輪郭を失っていく。ユリウスの家系の曖昧さは、単なる設定上の複雑さではなく、「名を失うとは何を失うのか」という作品全体の問いに直結する描写として読み解くのが精確である。

最優の騎士──称号が内包する重み

「最優の騎士」という呼び名は、ルグニカ王国においてユリウスだけに与えられた特別な称号である。この呼称が指すのは、単純な武力や精霊術の出力ではなく、剣技・魔法・品格・人望・忠誠といった騎士に求められるあらゆる要素の総合点が最も高い騎士、という意味合いだ。アニメ公式のキャラクター紹介においても「数ある騎士の中でも『最優の騎士』とされる優秀な人物」と記され、剣技・魔法・他騎士からの信頼がセットで強調される。

ラインハルト・ヴァン・アストレアが「剣聖の加護」という絶対の才能によって単独で世界最強級の武を担うのに対し、ユリウスの「最優」はあくまで総合評価の頂点だ。言い換えれば、ユリウスの強さは生まれ持った天稟ではなく、生涯をかけて積み上げた努力と自己研鑽の結晶である。この違いこそが、第三章でスバルに「実力とは積み重ねるものだ」と諭す彼の騎士哲学の根拠となっている。

精霊騎士としての実力──六色の準精霊と誘精の加護

ユリウスの戦闘スタイルは、王選候補者の騎士たちの中でも異彩を放つ。彼は剣技だけで戦う武人ではなく、身辺に常に六色の準精霊を従え、剣と精霊術を同時並行で運用する精霊騎士として機能する。原作Web版第三章79話「白鯨の死闘」や第五章77話「名無しの騎士」では、ユリウスの周囲に「六色の力を持った準精霊」が輝く描写が確認できる。

さらにユリウスは「誘精の加護」と呼ばれる特殊な加護を持つ。この加護は精霊を自分のもとへ誘い寄せる性質を持ち、本来精霊術師が長年の修練と対話を重ねて築く精霊との絆を、ユリウスの場合は生まれながらの才能として備えているという構造になっている。第六章6話でユリウス自身が「私の『誘精の加護』は今も健在のようだ」と述べる場面からも、加護が彼の精霊運用の土台であることが読み取れる。

戦闘要素内容
剣技近衛騎士団上位の実力。騎士としての正統な剣術を体現
六色の準精霊火・水・風・土・光・陰などに対応する属性別の準精霊を従える
同時詠唱炎と水の同時詠唱に剣撃を加えた三方一斉攻撃が可能
誘精の加護精霊を引き寄せる加護。精霊術師の適性を生まれながらに持つ

精霊と騎士の融合というユリウスの戦闘スタイルは、王国騎士の中でも極めて特異だ。白鯨討伐戦では剣士・術師の両面から戦線を支え、水都プリステラ編では魔女教大罪司教との多正面戦闘でも中核を担った。スバルが「剣と魔法の使い分けが常軌を逸している」と驚く水準の戦闘能力を、ユリウスは常に優雅に保ったまま発揮してみせる。

第三章「自称騎士と騎士」──公的空間での屈辱と教育

ユリウスがスバルと初めて本格的に対峙するのは、第三章の王選会議直後である。王座の間でエミリアの騎士を自称し、礼節を踏み外した言動を繰り返したスバルに対し、ユリウスは「騎士として落とし前をつけさせる」と決闘を申し込む。原作Web版第三章23話「自称騎士と騎士」では、この決闘が城の隣に独立した騎士団員詰所で執り行われることが明記されている。

決闘の内容は、一方的とさえ言えるほどの実力差の披露だった。ユリウスはスバルを何度も地面に叩き伏せながら、「前言を撤回し、頭を垂れるならここで終わろう」と降伏を促し続ける。しかしスバルはそれを拒み、ボロボロになるまで立ち上がり続けた。同第三章幕間「騎士たちの思惑」では、この決闘が「スバルきゅんは騎士の手でぶちのめされる必要があった」と明言されている通り、ユリウスにとっては単なる制裁ではなく、騎士の名を騙った者に対する公的な教育行為でもあった。

【考察】なぜ「公衆の面前」ではなかったのか 決闘の場を王座の間ではなく騎士団員詰所に移したという事実には、ユリウスの騎士としての配慮が表れている。エミリアの立場を守るため、そしてスバル自身の最低限の尊厳を守るため、決闘を公開処刑にはしないという選択がなされた。表向きはスバルに屈辱を味わわせる残酷な場面に見えて、実はユリウスは礼節の枠組みを崩さぬまま、教育的意図のもとに鉄槌を下している。この細部こそが「最優の騎士」という称号が武力以上に品格を問うものである証左となる。

スバルとの和解──白鯨戦からプリステラへ

第三章で最悪の形で始まったスバルとユリウスの関係は、第三章終盤の白鯨討伐戦を契機に徐々に変化していく。三大魔獣の一角である白鯨を相手取った総力戦で、スバルが前線の指揮役を務め、ユリウスが剣と精霊術で前衛を張った共闘は、二人の間の決定的な転換点となった。決闘で示された実力差が、今度は共闘における信頼へと昇華されていく過程である。

第五章水都プリステラ編では、ユリウスとスバルは敵対関係の痕跡を完全に拭い去り、最終決戦で肩を並べる戦友となっている。ユリウスはスバルに「ナツキ・スバル」と敬意を込めて呼びかけ、スバルもユリウスを「ユリウス」と呼び捨てるほどの距離感にまで到達した。Re:ゼロという作品が積み重ねてきた時間のなかで、「最悪の始まり」を「最良の協働」へと反転させたこの二人の関係性は、物語のもっとも丁寧に描かれた軌跡の一つである。

ラインハルト・フェリス・アナスタシア──ユリウスを支える人間関係

ユリウスの人間関係を語るうえで欠かせないのが、近衛騎士団の同僚たちとの絆だ。とりわけラインハルト・ヴァン・アストレアとの関係は特別で、原作Web版第五章78話「水門都市に残る波紋」の地の文では「近衛騎士団の同僚にして、親しい友人でもあったはずの二人」と明確に記述されている。第三章24話「決闘の顛末」でもユリウスがラインハルトを「我が友ラインハルト・ヴァン・アストレア」と呼ぶ場面があり、両者の友情の深さは本文中で何度も強調される。

フェリックス・アーガイル(フェリス)とはクルシュ・カルステンの騎士として同じ王国騎士圏で活動する同僚関係にあり、王選会議の場でも騎士側の列に並ぶ描写が見られる。そして主君アナスタシア・ホーシンとは、アニメ公式で「アナスタシアの騎士として、共に王選を戦う」と明記される通り、強固な主従関係と相互信頼で結ばれている。

この人間関係の網の目こそが、後に第五章77話で暴食の権能によって一斉に断たれる。ユリウスが失うのは名前という一つの記号ではなく、この網の目のすべて──友情、主従、同僚意識という、彼という人間を社会的に成立させていた無数の結び目そのものなのである。

第五章77話「名無しの騎士」──名前が食われた日

ユリウスの物語における最も決定的な転換点は、原作Web版第五章77話「名無しの騎士」で訪れる。水都プリステラを襲った大罪司教『暴食』ロイ・アルファルドとの戦闘の最中、ロイはユリウスに触れて「あぁ――ゴチソウサマでしたッ」と告げる。その瞬間、ユリウス・ユークリウスという名前は、ロイの「権能」によってこの世から食べられた。

暴食の権能には二つの系統がある。名を奪うロイと、記憶を奪うライ・バテンカイトス(名前と容姿が類似するが別人物)。ユリウスに降りかかったのは前者、名を奪われる系統である。本人の意識も記憶も身体も無事なまま、周囲の人間の側から「ユリウス・ユークリウス」という記号だけが抜け落ちていく──これが暴食「大食」の恐ろしさの核心だった。

【重要ポイント】暴食の二つの食べ方 暴食の権能の保有者は三人(ライ・ロイ・ルイ)とされるが、それぞれの食べ方には性質の違いがある。「記憶を奪う」系統(ライ・バテンカイトスなど)の犠牲者はレムのように眠り続けることになり、「名前を奪う」系統(ロイ・アルファルドなど)の犠牲者はユリウスのように意識は保ったまま周囲から忘れられる。ユリウスとレムは同じ暴食被害者でありながら、状態はまったく異なる。記事や議論でこの二種類を混同すると事実を歪めることになるため、区別が肝要である。

第五章78話「水門都市に残る波紋」──忘却が確定する瞬間

名前を食われた影響が周囲に確定的に広がるのは、次話第五章78話「水門都市に残る波紋」においてだ。この話ではユリウスが親友であるはずのラインハルトや、主君であるアナスタシアと顔を合わせても、両者がユリウスという人物に心当たりを持てないことが明らかになる。ラインハルトは会議の場でユリウスを「見覚えのない人物」として扱い、アナスタシアも平然とユリウスの前を通り過ぎていく。

同話で地の文が突きつける「近衛騎士団の同僚にして、親しい友人でもあったはずの二人――その友情という繋がりも、『名前』を喰われたことで断たれてしまっている」という描写は、暴食の権能が奪ったものの輪郭を読者に鋭く提示する。物理的な傷は一つもない。しかしユリウスという人物を成立させていた社会的なすべての結び目が、名前という一点を抜かれただけで根こそぎ崩壊してしまった。

ユリウス本人が同話で「すでにアナスタシア様とも…顔を合わせたあとだよ」と語る場面は、Re:ゼロという作品の中でもとりわけ静かで悲痛な一節として読者の記憶に刻まれている。

「名無しの騎士」としての自己──存在証明の不可能性

名前を失ったユリウスは、自らを「名無しの騎士」と呼ぶしかなくなる。彼が騎士として積み上げてきた功績、交わしてきた友情、主君への忠誠、家族との絆──これらはすべて「ユリウス・ユークリウスという人物」に紐づけられていた。名前という紐が抜かれた瞬間、これらの価値の総体は宙に浮き、他者から承認される手段を失う。

それでも彼は騎士としての在り方を捨てない。記憶を共有できる相手はスバルともう僅かな人物だけになったが、ユリウスはその限られた接点の中で、自分が騎士として何を為すべきかを問い続ける。周囲が忘れても、ユリウス自身が自分の誇りと使命を覚えている限り、騎士であることは放棄されない──この断固たる自己定義こそ、暴食の権能ですら奪いきれなかったユリウスの「正体」の核である。

【考察】『名無しの騎士』という逆説 名を失ったユリウスが名乗る「名無しの騎士」という呼称は、それ自体が一つの逆説を内包している。名前を失ったはずの存在が、「名無し」という名で自らを呼ぶ──この構造は、彼が失ったのが名前という単なる記号ではなく、他者との関係性に裏打ちされた承認であったことを浮かび上がらせる。名前は本人の所有物ではなく、他者との関係の中で繰り返し呼ばれ続けることで実体を持つ。ユリウスが「名無し」と名乗るのは、その関係性の喪失を自ら言語化することで、かえって「関係を失った者としての自分」を新たに定義し直す試みなのである。

プレアデス監視塔遠征への同行──当事者としての旅立ち

第五章末から第六章にかけて、ユリウスはスバルたちが計画するプレアデス監視塔遠征への同行を決める。遠征の目的は、賢者シャウラが住まう監視塔でレム・クルシュ・ユリウスら「暴食」被害者を救う手がかりを求めることにあった。原作Web版第五章79話「賢者の監視塔」から監視塔行きの方針が固まり、第五章81話「強欲の器を満たす者」でユリウス同行が明言される。

第六章1話「竜車帰還路」の時点で一行はすでに旅路に入っている。同行者はスバル、エミリア、ベアトリス、アナスタシア、ユリウス(+襟ドナとしてのエキドナ)といった面々で、ユリウスは主君からの認識を失ったまま、それでもアナスタシア陣営の騎士として隊列に加わっている。この旅立ちは、名前を失った彼にとって自分を回復するための唯一の道筋であり、同時に主君との繋がりを自分の意志で再構築する試みでもあった。

第六章28話「ユリウス・ユークリウス」──名乗ることの重み

第六章でユリウスが物語の中心に立つのが、原作Web版第六章28話「ユリウス・ユークリウス」である。話数の名前そのものが彼のフルネームになっているこの話で、ユリウスは記憶から抹消された自分自身を、改めて名乗り直すような重要な局面を迎える。「『最優』の騎士。ルグニカ王国、近衛騎士団。アナスタシア・ホーシンの一の騎士」──この自己紹介は、彼が名前を失ってなお変わらず保ち続けている自己認識の核そのものだ。

この自己紹介の場面が持つ意味は重い。周囲が自分を忘れている状況で、それでも自分を「最優の騎士」「アナスタシアの一の騎士」と定義し続ける行為は、社会的承認が失われた後も本人の中に生き続ける職業意識の宣言である。ユリウスは自分の名を他人に覚えてもらう努力を投げ出すのではなく、自分自身がその名を手放さないことを選んだ。

第六章85話「グッドルーザー」──敗者としての尊厳

監視塔攻略の中盤、ユリウスは「二つ目の障害」と呼ばれる試験(レイド・アストレアの試験)に挑む。原作Web版第六章85話「グッドルーザー」は、この試験においてユリウスが結果的に敗北を味わう場面を描く話数である。「グッドルーザー」という話題題は、勝てなかった者が如何に気高く敗北を受け入れるかを問うテーマと直結している。

ユリウスの強さは勝利の数ではなく、敗北の受け止め方にも表れる。負けてなお背筋を伸ばし、次への課題を自分で引き受ける姿勢──それこそが「最優の騎士」という称号が内包する真の意味である。敗北を通じて自己を定義し直すこの場面は、第三章で決闘に敗れたスバルが立ち上がり続けた姿と奇妙に対称をなしており、長大な物語の軌跡が交錯する見事な構成を見せている。

第六章90話「英雄」──名前がまだ戻らない理由

監視塔編クライマックスの第六章90話「英雄」では、ユリウスの名前が今なお完全回復に至っていないことが明示される。この話でユリウス自身が「私の『名前』が戻らない理由の想像はつく」「ロイ・アルファルドは生け捕りにしてある。厳密には、私の『名前』は彼に奪われたモノだ。だから、まだ戻らない」と語る。

この発言は暴食の権能の回復条件について重要な手がかりを与える。名前を奪った権能保持者が生存しそれを体内に留めている限り、奪われた名前は本人のもとへ返却されない──このルールが示された瞬間、ユリウスの名前の完全回復には、ロイ・アルファルド本人に関する何らかの決着が必要となることが確定した。第六章終結時点で彼は依然として「名無しの騎士」のままであり、この状態は第七章以降へと持ち越されていく。

【考察】ユリウスの「正体」とは何か 本記事の主題である「ユリウスの正体」への答えは、第六章90話の描写に凝縮されている。彼は「最優の騎士」であり「名無しの騎士」である。この二つの名乗りは矛盾するように見えて、実は一つの存在を二つの角度から描写したものだ。名前を失ってなお騎士であり続ける人物──ユリウスの正体とは、他者からの承認なしに自己の定義を維持し続ける、驚異的な精神的筋力そのものである。この意味で彼は、Re:ゼロ世界における「名前とは何か」という問いへの最も雄弁な解答として機能している。

第七章以降の現在──アナスタシア陣営の中核として

第七章ヴォラキア帝国編以降も、ユリウスはアナスタシア陣営の中核メンバーとして物語に関わり続けている。KADOKAWA公式の書籍紹介によると、物語は第八章・第九章へと進行し、2025年以降にも新刊が継続して刊行されている。ユリウスは死亡や退場といった転機を迎えることなく、主君アナスタシアのそばで王国を支える立場を保っている。

ただし、2026年時点で確認できる公式情報の範囲では、ユリウスの名前が完全回復したことを明示する記述は確認できていない。「最優の騎士」と「名無しの騎士」の二重状態は、物語が進行するなかで少しずつ揺さぶりをかけられながらも、根本的な解決には至っていない状況が続いている。この未解決の状態そのものが、ユリウスという存在の物語的な緊張を支え続ける装置となっている。

外伝EX4『最優紀行』と短編集──もう一つのユリウス

本編だけでなく、外伝や短編でもユリウスは重要な役割を担う。KADOKAWAが刊行した外伝EX4『最優紀行』は、タイトル自体が「最優」すなわちユリウスを指す作品で、ユリウスがフェリスとラインハルトの二人とともにヴォラキア帝国へ向かう旅路を描いた物語だ。本編では見られないユリウス、フェリス、ラインハルトの三人組としての関係性が丁寧に描かれる。

また短編集12に収録された「First Mission」は、若き日のユリウスが初任務で赤毛の少女と出会い事件を解決する過去譚で、現在のユリウスが積み上げてきた騎士としての歩みの原点を垣間見ることができる。本編のユリウスが名前を失い苦悩する姿を読んだ後でこれらの外伝を読むと、「最優の騎士」という称号がどれほど多くの経験と出会いの上に成立していたかが立体的に立ち上がってくる。

アニメ4thシーズンでの描写──江口拓也の声が与える品格

アニメ版Re:ゼロから始める異世界生活シリーズにおいて、ユリウスの声を担当するのは江口拓也である。第1期の王選編初登場から、第2期の白鯨戦・プリステラ編を経て、第4thシーズンの監視塔編に至るまで、ユリウスは一貫して品格ある騎士の声色で演じられてきた。江口拓也の抑制の効いた演技は、ユリウスの「最優の騎士」たる所以をそのまま音声として体現しており、特に名前を失った後のシーンでは、喪失感を過剰に叫ばず静かに引き受ける演技が印象に残る。

アニメ4thシーズン監視塔編では、ユリウスはベアトリス、メィリィ、シャウラと並ぶ主要キャストとして展開の中心に位置する。原作の繊細な心情描写をアニメ尺の中でどこまで拾えるかが注目される章だが、公式サイトの紹介文でも「名前を奪われてしまったユリウス」の救出が遠征の動機として明記されており、この主題への配慮は保たれている。

ユリウス・ユークリウスというキャラクターが刻んだもの

ユリウス・ユークリウスの物語は、Re:ゼロという作品が繰り返し問うてきた「自己とは何か」「名前とは何か」「承認とは何か」という主題に対する、もっとも徹底した一つの解答である。完璧な騎士として他者から認められることで輝いていた存在が、認められる手段そのものを奪われたとき、何が残るのか──この過酷な問いに対して、ユリウスは「それでも自分で自分を認め続ける」という答えを、派手な覚醒や力の獲得なしに静かに体現してみせた。

彼の強さは暴食の権能を破る力ではない。権能に奪われた自分をもう一度自分で拾い上げ、誰も覚えていない自分を自分の足で立たせ続ける意志──その不可視の筋力こそが、ユリウスの正体であり、「最優の騎士」という称号の真の意味である。名前が戻るかどうかは物語の進行次第だが、仮に永遠に戻らなくとも、ユリウスは騎士であり続ける。その自己同一性の堅牢さこそ、Re:ゼロがこのキャラクターに託した最大の財産だ。

  • フルネームはユリウス・ユークリウス。ルグニカ王国近衛騎士団所属でアナスタシア・ホーシンの一の騎士、CVは江口拓也
  • 『最優の騎士』の称号は剣技・魔法・人格・忠誠の総合評価で王国最高位を指す
  • ユークリウス家は実父クライン・養父アルビエロの構図で、ユリウスは養子入り。ヨシュアとの血縁関係は第六章時点で本人の認識が揺らいでいる
  • 六色の準精霊を従える精霊騎士で、誘精の加護を生まれながらに持ち、剣と精霊術を同時運用する
  • 第三章23話『自称騎士と騎士』では騎士団員詰所でスバルを圧倒し、礼節の枠を保ったまま教育的制裁を下した
  • 第五章77話『名無しの騎士』で大罪司教『暴食』ロイ・アルファルドに名を食われ、第五章78話で周囲全員の記憶から抹消されたことが確定した
  • ラインハルト・ヴァン・アストレアとは『近衛騎士団の同僚にして親しい友人』と本文に明記される深い絆を持つ
  • プレアデス監視塔遠征に名無しの騎士として同行、第六章28『ユリウス・ユークリウス』・第六章85『グッドルーザー』・第六章90『英雄』で主要局面を担う
  • 第六章90話時点で名前はまだ完全回復していない。ロイ・アルファルドが生け捕り状態である限り返却されない
  • 外伝EX4『最優紀行』と短編集12『First Mission』でユリウス中心のエピソードが描かれる

名を失ってなお騎士であり続け、忘れられながらも自分だけは自分を覚え続けた男──ユリウス・ユークリウスというキャラクターが物語に刻んだのは、承認の喪失に堪える精神の厳粛な姿である。Re:ゼロが長大な時間のなかで彼に負わせた「名無しの騎士」という試練は、作品全体が執拗に問い続けてきた「失ったものを背負ったまま前へ進む」という主題の、もっとも厳しく、もっとも気高い具現化なのである。