【Re:ゼロから始める異世界生活】ベアトリス完全考察 ― 禁書庫に封じられた四百年と『俺を選べ』が解いた呪縛
Re:ゼロから始める異世界生活のロズワール邸には、誰にも見つからない一つの書庫がある。扉を開けるたび行き先が変わる迷路の果てに、金色の縦ロールを揺らし、豪奢なドレスの裾を床に引きずる少女が一人きりで座っている。本を抱え、埋もれる埃と沈黙のなかで、彼女は四百年もの時間をただひたすらに「その人」を待ち続けていた。その少女の名は、ベアトリス。強欲の魔女エキドナが自らの手で創り出し、自らの知識の書庫を委ね、自らの残酷な契約で縛りつけた人工精霊である。本稿では、禁書庫に封じられていた四百年から、スバルと交わした新たな契約、そして契約後の戦いに至るまで、ベアトリスというキャラクターの全貌を原作に即して徹底的に解き明かしていく。
【重大ネタバレ警告】本記事はRe:ゼロから始める異世界生活の第四章「聖域と強欲の魔女」、第五章「水の都と英雄の詩」、第六章「プレアデス監視塔」の核心ネタバレを含む。ベアトリスの正体が人工精霊であること、創造主がエキドナであること、福音書(叡智の書の複製本)の真実、第四章129話「――俺を選べ」での契約成立、第六章監視塔遠征での戦闘描写にまで踏み込む。未読の読者は原作読了後の閲覧を推奨する。
ベアトリスとは──禁書庫に封じられた四百年の精霊
ベアトリスはRe:ゼロ本編において、「長い孤独を経て契約相手を得るキャラクター」として描かれた、シリーズ屈指の情念を背負う少女である。ロズワール邸に隠された禁書庫の司書として初登場し、スバルとの邂逅を繰り返しながらも、第四章に至るまで決して距離を縮めようとしない。その冷たい態度の底には、「その人」と呼ばれる誰かを待ち続けるためだけに生き、人を愛することも拒絶することもできないまま四百年を過ごしてきた、ねじれきった孤独が横たわっている。第四章で彼女の真実が明かされ、スバルとの契約によって全てが解き放たれる過程こそ、Re:ゼロ第四章の感情の核そのものと言ってよい。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式表記 | ベアトリス(愛称:ベティー/スバル呼称:ベア子) |
| 種族 | 人工精霊(プロフィール上は「少女の姿をした精霊」) |
| 創造主 | 強欲の魔女エキドナ(ベアトリスは「お母様」と呼ぶ) |
| 役割 | ロズワール邸の禁書庫の司書/後にスバルの契約精霊 |
| 外見 | 金髪の長い縦ロール、豪奢な赤いドレス、幼い少女の姿 |
| 口調 | 一人称「ベティー」、語尾「〜かしら」「〜なのよ」 |
| 契約魔法 | 陰魔法全般(シャマク、ムラク、ミーニャ系など) |
| アニメ声優 | 新井里美 |
外見と口調──幼い姿に封じ込められた四百年の重み
ベアトリスの容姿は作中でもひときわ印象的だ。金髪を丁寧に縦ロールに結い、豪奢な赤系のドレスに身を包んだ幼い少女の姿をしている。見た目の年齢は十歳前後に見えるが、実年齢はゆうに四百歳を超える。この外見と内面のギャップこそ、ベアトリスというキャラクターを語るうえで欠かせない前提だ。幼い身体の中には、人間一人が生涯を十回繰り返しても到達できない時間の澱が封じ込められている。
口調もまた独特である。一人称は「ベティー」、語尾には「〜かしら」「〜なのよ」が頻出する。この丁寧で尊大な物言いは、孤独な司書として人との距離を保ち続けるための防壁であり、また魔女の娘として育った誇り高さの表れでもある。スバルからは親しみを込めて「ベア子」と呼ばれるが、当初は「誰がベア子かしら」と抗議する姿こそが、読者にとって最初に刻まれるベアトリス像だろう。
創造主エキドナ──「お母様」という呪縛
ベアトリスの出自は、強欲の魔女エキドナに直接結びついている。第四章129話「――俺を選べ」で語られる回想には、幼い少女の姿のまま生まれたベアトリスが、エキドナに「お母様」と呼びかける場面が描かれる。エキドナはベアトリスの創造主であり、同時に魂の方向性を決定した存在でもある。ベアトリスにとってエキドナは文字通りの「母」であり、慕い、仕え、その命令に従うことが生まれながらの行動原理だった。
しかし、この母子関係には決定的な非対称性がある。ベアトリスはエキドナを純粋に愛していたが、エキドナ側の感情は愛情とは別種のものだ。強欲の魔女は「知りたい」という欲望を本質とする存在であり、ベアトリスに与えた契約も、その実態は娘への贈り物ではなく「観察対象」への実験に近い。ベアトリスは自分を愛してくれていると信じた母から、「いつ訪れるかわからない誰か」を待ち続けるという残酷な任務を託されることになる。
【考察】エキドナの知的好奇心と「その人」の空白 強欲の魔女が具体的な「その人」の正体をベアトリスに教えなかった理由は、第四章以降を通読した上で振り返ると明確になる。エキドナはベアトリスが「何百年も経った後、誰を選ぶか」それ自体を見たがった。条件だけを与え、具体を与えない。結果、契約は希望の約束ではなく、解法の存在しない方程式と化した。母の愛だと信じていたものが、実は母の好奇心の実験場だったという残酷な構図が、ベアトリスという存在の悲劇の源になっている。
禁書庫──扉渡りに封じられた知識の牢獄
ベアトリスが司書を務めた禁書庫は、ロズワール邸の通常の廊下から直接辿り着ける場所ではない。扉を開けるたびに出口が変わる「扉渡り」と呼ばれる空間干渉の仕組みによって隔離されており、ベアトリス本人以外は意図的に導かれない限り到達できないようになっている。この書庫にはエキドナが生前に収集した膨大な知識が収められており、その性質から一般の訪問者を拒絶する必要があった。
スバルがロズワール邸に滞在する初期から、偶然禁書庫に迷い込む場面は何度か描かれる。扉の性質上、迷い込んでしまう者が存在することまではベアトリスにも防ぎきれず、そのたびに彼女はスバルを冷たく突き放し、すぐに扉の外へ送り返してきた。しかしこの偶発的な接触の繰り返しこそが、後に第四章で二人を結びつける伏線となっていく。
ロズワール邸に繋げられた理由──忠誠ではなく契約の帰結
ベアトリスがロズワール邸にいる理由を、「ロズワールに仕えているから」と捉えるのは大きな誤解である。第四章129話の回想でエキドナがはっきりと示すのは、「禁書庫は、ロズワールの屋敷に繋げるのが一番だろう」という判断だ。つまりベアトリスの所在地は、ロズワールへの忠誠の結果ではなく、エキドナが禁書庫の設置先を選んだ結果にすぎない。
さらにエキドナは、「書棚の準備や人足に関してはロズワールを頼ってほしい」とも述べている。ベアトリスにとってロズワールは、あくまで「母の指示で頼ることを許された協力者」であり、主人ではない。四百年にわたって同じ屋敷に同居していても、ベアトリスの行動原理はロズワールの悲願ではなく、エキドナとの契約と「その人」への誓いであり続けた。
【重要ポイント】ベアトリスはロズワール陣営ではない 第四章の核心の一つは、ロズワールもまたベアトリスと同種の「叡智の書の複製本」を所持しているという事実である。しかし、同じ系譜の本を持つからといって両者は同一陣営ではない。ロズワールは自分の複製本の記述に従って世界を誘導しようとする能動的な存在であり、ベアトリスは白紙になった本の前で立ち尽くす受動的な存在だった。同じ母を持つ二人の受け取り方の違いこそが、第四章終盤で決定的な分岐を生むことになる。
『その人』契約と叡智の書の複製本
ベアトリスがエキドナから与えられた契約は二つの要素から成る。一つは禁書庫を守り続けること、もう一つは「その人」が禁書庫の扉を開けて役目の終わりを告げに来るまで待つことである。「その人」が誰なのか、いつ来るのか、何を契機に現れるのかといった具体的な条件は、ベアトリスに一切明かされていない。手がかりとして託されたのは、エキドナが所持する「叡智の書」の不完全な複製本──一般に福音書と呼ばれることもある一冊の本だけだった。
ここで重要なのは、Re:ゼロ作中に登場する三種類の「本」の区別である。雑に福音書と呼ばれがちな本だが、実はそれぞれ系譜と格が異なる。
| 本の種類 | 性質と所持者 |
|---|---|
| 叡智の書 | エキドナ所持の原本。必要な知識を自在に引き出せる万能の禁書 |
| 叡智の書の複製本 | ベアトリスとロズワールが各一冊所持。所持者の未来を記す、一部機能の継承版 |
| 魔女教徒の福音書 | ペテルギウスら大罪司教が持つ紛い物。原理は同じだが性能は大幅に劣化 |
ベアトリスの本を単に「福音書」と呼ぶと、魔女教徒の粗悪な福音書と同列に扱ってしまう誤解を生みやすい。第四章61話「四百年前からの叫び」でベアトリス自身が語るとおり、「叡智の書はそこから必要な知識を引き出す禁書。福音書は、一部だけその機能を引き継いでいる」という位置づけが正確だ。彼女の本は、魔女教が持つ紛い物よりも格段に上位の、エキドナの叡智そのものから枝分かれした希少な複製本である。
白紙化する本──沈黙し始めた未来
ベアトリスの本は、当初確かに未来を記していた。契約の日から長い年月にわたって、ページには時折新しい記述が加えられ、「その人」への導きを示し続けていた──はずだった。しかし第四章61話で彼女がスバルに語る真実は、読者の胸を鋭く抉るものだ。「福音書が、次の記述をベティーに見せることが、ないってことになのよ」。ある時点から、本は新たな記述を示さなくなった。踵で踏んだページに広がる空白。白紙の扉の前で、ベアトリスは時間だけが流れていく部屋に取り残された。
「毎日、何度も何度も、記述が変わっていないか……確かめる時間が苦痛だった」というベアトリスの告白は、四百年という数字の重みを数値ではなく情感として読者に突きつける。契約を完了できれば解放される、という構造だけが残され、その鍵となる具体は永遠に白紙のまま。彼女が置かれた状況は、答えのない試験を無期限に受け続ける囚人に等しかった。
【考察】白紙の本が意味するもの 本の記述が止まった瞬間、ベアトリスの契約は事実上機能不全に陥った。にもかかわらず、彼女は契約を破棄することもできない。なぜなら契約相手であるエキドナはすでに四百年前に封印され、契約変更の許可を得る手段も存在しないからだ。白紙のページは「母に忘れられた」という証にも、「母が最初から具体を与えなかった」という証にも読める。どちらに解釈しても残酷だが、スバルはこの双方に対して「お前のやりたいことは、お前が選べ」と断じることになる。契約の母体を絶対視する思考そのものを、スバルは根本から転覆させる。
パックとの関係──エキドナが遺したもう一人の子
ベアトリスにとって、もう一人の重要な精霊がパックである。パックもまたエキドナの手で生み出された人工精霊であり、ベアトリスにとっては同じ母から生まれた「兄」のような存在にあたる。ベアトリスはパックを「にーちゃ」と呼び、再会した際には「またにーちゃに会えて、嬉しいかしら」と素直な喜びを見せる。禁書庫で孤独に過ごしてきたベアトリスにとって、パックは数少ない心許せる相手の一人だった。
しかし二人の境遇には大きな差があった。パックはエキドナの死後、禁書庫の縛りを受けず外界を巡ることが許された存在で、三百年もの時間をかけて世界を放浪し、やがてエミリアを見つけ出した。一方のベアトリスは禁書庫から動くことを許されず、屋敷の一室に閉じ込められたまま四百年を過ごした。同じ母から生まれ、同じ人工精霊として造られたのに、一方は探しに行けた側で、もう一方は待たされる側だった。この非対称性が、ベアトリスの孤独をいっそう深くしていた。
第四章124話「いいから聞け、馬鹿」──スバルの断罪
ベアトリスの変化が始まるのは、第四章124話でスバルが彼女に向けた言葉からである。「白紙の本と、四百年前の口約束にいつまでも振り回されてんじゃねぇ。――お前のやりたいことは、お前が選べ、ベアトリス」。この一言は、ベアトリスが四百年守り続けてきた自己認識の根本を揺さぶった。
それまでのベアトリスは、自分の存在価値を「契約を果たすこと」に一元化していた。エキドナに与えられた役目を果たすために生まれ、その役目を果たせない自分に存在意義はない──そう信じ込まされていた少女に対して、スバルは「契約を捨てろ」ではなく「自分で選べ」と投げかけた。過去を否定するのでも、契約を嘲笑うのでもなく、選択権そのものをベアトリス自身の手に返す。この切り口こそがスバルの凄みであり、ベアトリスの心を初めて本当の意味で動かした瞬間だった。
第四章129話「――俺を選べ」──新たな契約の成立
そして、ベアトリスとスバルの物語の決定的な瞬間が、第四章129話「――俺を選べ」で描かれる。禁書庫の中で、スバルはベアトリスに正面から向き合い、彼女に問われた「ベティーの、『その人』に、なってくれるの?」という問いを断固として否定する。「馬鹿か、お前。――俺がお前の『その人』なんてわけのわからない奴のわけねぇだろ」。
運命の相手を演じて契約を完了させてやる──そんな甘い偽装を、スバルは拒絶した。彼がベアトリスに差し出したのは、エキドナが遺した古い契約を上書きする、新しい契約そのものだった。「その人」の座に納まるのではなく、過去の契約ごと捨てて、今ここで自分を選ぶ相手として自分を差し出す。白紙になったページの上に、ベアトリスが自分の意志で新しい名前を書き込めるように、スバルはその余白を差し出したのである。
このシーンはアニメでは2nd season第49話「俺を選べ」として映像化されており、書籍版では第15巻に収録されている。アニメ版と原作Web版の話数はずれるが、核心の構図──四百年の契約からの解放と、新しい契約による再出発──は完全に共有されている。
【考察】『俺を選べ』が転覆させた契約思想 エキドナの契約が「条件を満たせば解放される」という構造だったのに対し、スバルが提示した新しい契約は「今ここで互いに選び合う」という構造だった。前者は過去を基準にし、後者は現在を基準にする。ベアトリスが受け取ったのは単なる新しい契約ではなく、人間関係の時間軸そのものの組み替えだった。この転換は第四章という章全体が主題としていた「過去への執着からの解放」という主軸とも完全に重なっている。ベアトリスの契約更新は、スバル自身がロズワールに対して突きつける「未来を選ぶ」という宣言の、もう一つの具現化でもある。
大兎戦でのアル・シャマク──新契約の初陣
契約を結んだ直後、スバルとベアトリスは第四章終盤の最大の脅威である三大魔獣の一翼、大兎との初陣に挑む。雪原を埋め尽くす無数の兎の群れに対して、エミリアが氷で地形を制圧し、ベアトリスが陰魔法の最上位である「アル・シャマク」を発動する場面が、原作Web版第四章130話「雪の顔型」として描かれる。
ベアトリス自身が語るとおり、「アル・シャマク――シャマク系の最大の魔法は、空間に作用する魔法」である。シャマクは単なる暗闇化や目くらましではなく、空間そのものに働きかける高次の陰魔法であり、その最上位であるアル・シャマクは対象領域ごと闇の球体に呑み込んで圧縮・消失させる規格外の殲滅魔法として描かれる。四百年の孤独を経てようやく自分の意志で戦う相手を見つけたベアトリスが、その初陣で叩き込んだ最大級の一撃──この描写がもつ情緒的な重さは、第四章のクライマックスを支える決定打となった。
アニメ版では、大兎戦の本格描写は2nd season第50話に該当する。契約回の翌話で戦闘が描かれる構成は、原作Web版の129話→130話の流れと呼応しており、新契約の成立とその直後の共闘が一連の物語として位置付けられているのが分かる。
ムラクと陰魔法体系──重力を操る精霊術
ベアトリスの陰魔法はシャマク系だけではない。作中で頻繁に登場するのが「ムラク」と呼ばれる重力干渉系の魔法である。第五章で初めて本格的に運用されるこの魔法は、「重力の法則を捻じ曲げる陰魔法」として紹介され、スバルやパトラッシュの体重を一時的に軽減することで機動力と跳躍力を飛躍的に向上させる。ムラクは空間転移ではなく、あくまで重力への干渉である点に注意が必要だ。
ベアトリスが使う陰魔法には、このほかにも暗黒物質を生成するミーニャ系の魔法があり、さらには重力を逆方向に増大させる「ヴィータ」のような派生系も作中に登場する。ベアトリスはスバルと手を繋ぐことでマナを供給される契約関係にあり、スバル自身はマナの扱いに難があるものの、ベアトリスを介することで陰魔法体系全般にアクセスできるようになる。
| 魔法名 | 効果と使用場面 |
|---|---|
| シャマク | 感覚阻害・暗闇化の基本形。対象の視認能力を封殺する |
| アル・シャマク | シャマク系の最上位。空間に作用し、領域そのものを闇で支配。第四章130話で大兎戦に使用 |
| ムラク | 重力干渉で軽量化。機動補助、跳躍、回避に活用。第五章・第六章で多用 |
| ヴィータ | ムラクの対概念で重力を増大。大型敵の拘束や無力化に使用 |
| ミーニャ系 | 暗黒物質を射出する攻撃魔法。近距離戦でも多用される |
第六章プレアデス監視塔──契約精霊として戦場へ
第六章プレアデス監視塔編のベアトリスは、四百年間の司書から完全に脱皮した一人の戦う精霊として描かれる。アウグリア砂丘の踏破から始まる塔遠征の道中、彼女はパトラッシュにムラクを掛けて疾走力を補い、スバルの身体を浮かせて岩壁を跳び、未知の魔獣と遭遇するたびにシャマクで戦線を支えた。禁書庫の中で埃と沈黙に包まれていた少女が、砂漠の灼熱と風に身を晒して戦う姿そのものが、第四章から第六章にかけての巨大な変化の証である。
第六章の中盤、スバルが暴食の権能「蝕(エクリプス)」の影響で記憶を失うという深刻な事態に見舞われたとき、ベアトリスは最も近くで彼の動揺を受け止めた。記憶からスバルを失いかけながらも、それでも契約の絆を頼りに彼と共に戦い続ける姿は、契約精霊というあり方の本質を雄弁に物語っている。契約は記憶ではなく魂の結びつきによって維持される──ベアトリスの存在が、読者にそれを静かに示していた。
クライマックスの紅蠍戦では、ムラクで自分とスバルを軽量化して致命打を回避し、シャマク系の魔法で戦線を支援しながら、メィリィがシャウラ本人に呼びかけるための時間を稼ぐ役割を担った。ここでのベアトリスは単なる砲台ではなく、戦場全体を読んで適切な支援を繰り出す戦術的な相棒として機能している。スバルとペアを組むことを前提とした運用は、第四章で結ばれた契約の成熟を具体的な戦闘描写として映し出す好例となった。
【考察】契約は静かに育つ 第四章で結ばれた契約は、派手なパワーアップや覚醒を伴うタイプではなかった。ベアトリスとスバルの絆は、むしろ第五章・第六章という長い実戦の積み重ねのなかで、ゆっくりと血肉を得ていく。共闘のリズム、手の繋ぎ方、互いをマナと信頼で支え合う時間の蓄積──こうした小さな描写の堆積こそが、第六章紅蠍戦の連携の凄みを支えている。ベアトリスの戦闘力は魔法の強さだけで測れない。四百年分の孤独を共有してくれた相棒との関係性そのものが、彼女の戦闘力の最大の核なのである。
ロズワールとベアトリス──同じ母を持つ者同士の分岐
ベアトリスと同様に、ロズワール・L・メイザースもまたエキドナの叡智の書の複製本を所持している。同じ母から同じ系譜の本を与えられた二人が、なぜ第四章で決定的に袂を分かつことになったのか──この問いは第四章全体を貫く重要な主題でもある。
ロズワールは複製本の記述を絶対視し、そこに書かれた未来を実現するために周囲の人間を道具のように扱う存在へと変質していった。一方のベアトリスは、記述が止まった白紙の本を前に自分の存在意義を見失い、動けないまま四百年を過ごした。同じ本を持ちながら、ロズワールは能動的な暴走に、ベアトリスは受動的な停止に陥ったのである。この対比は、エキドナという母が遺した「呪い」が、受け手によって全く異なる毒として作用することを示している。
第四章でスバルがロズワールに対して突きつけた「未来を自分で選べ」という主張は、まさにベアトリスに向けられた「お前のやりたいことはお前が選べ」と同じ言葉の別表現だった。母の本に縛られた二人に、同じ形の救いの言葉を差し出し、一人は受け入れ、一人は拒絶する──その分岐こそが、第四章の物語としての骨格を支えている。
第七章以降のベアトリス──契約精霊としての現在
第七章ヴォラキア帝国編以降のベアトリスは、もはや禁書庫の司書だった時代の面影を見せない。スバルの契約精霊として帝国の動乱に身を投じ、スバルと離れること自体を嫌う態度を全面に出している。KADOKAWA公式の第36巻紹介文に引用されているベアトリスの台詞「ベティーは望むところなのよ。もうスバルと離れ離れは御免かしら」は、四百年を待ち続けた少女が「待つ」ことから「共に行く」ことへと完全に生き方を転換したことを端的に示している。
2025年以降に刊行された書籍でも、ベアトリスは物語の中核メンバーとして健在である。死亡や退場といった大きな転機は描かれず、エミリア陣営の戦力として、そしてスバルの相棒として、引き続きシリーズを支える重要キャラクターの位置を保っている。禁書庫で待ち続けていた四百年と、スバルと共に戦う現在。この落差こそがベアトリスというキャラクターの最大の見どころであり、Re:ゼロという長大な物語が積み重ねてきた時間そのものの証となっている。
新井里美の声が与えたベアトリスの命
アニメ版Re:ゼロから始める異世界生活シリーズにおいて、ベアトリスの声を担当するのは新井里美である。尊大で毒舌混じりの「〜かしら」という語尾、幼い少女の声質の奥から時折垣間見える四百年分の疲労と孤独、そしてスバルとの契約後に徐々に増えていく柔らかさ──新井里美の演技は、ベアトリスというキャラクターの時間的な厚みを声の表情だけで立体化してみせた。特に第四章終盤、禁書庫での契約シーンでの声の震えは、アニメ2nd season屈指の名演技としてファンの記憶に深く刻まれている。
ベアトリスというキャラクターが刻んだもの
ベアトリスの四百年は、愛と呼ぶには残酷すぎる条件の上に立っていた。創造主に愛されていると信じた少女が、実はその母から「いつ来るかわからない誰か」を待つためだけの役目を与えられ、手がかりの本まで途中で沈黙した──この構造そのものが、ベアトリスという存在の悲劇の源である。しかし物語は、その契約を破棄することでも、条件を完了させることでもなく、「新しい契約で上書きする」という第三の道を用意した。
スバルが差し出した「俺を選べ」という言葉は、過去の母を否定する言葉ではなく、未来を選ぶ権利をベアトリス自身の手に返す言葉だった。四百年の孤独は消えない。白紙の本も元には戻らない。それでも、今この瞬間に誰を選ぶかはベアトリス自身が決められる──この単純で、しかし根本的な真実に触れた瞬間、ベアトリスは初めて「待つ精霊」から「選ぶ精霊」へと生まれ変わった。
- ベアトリスはエキドナが創造した人工精霊で、ロズワール邸の禁書庫の司書として約四百年を過ごした
- 『その人』を待つ契約は、具体条件を一切知らされないまま与えられた残酷な任務だった
- 所持する本は『叡智の書の不完全な複製本』であり、魔女教徒の紛い物福音書とは格が異なる
- 第四章61話で本が白紙化していたことが告白され、契約は事実上機能不全に陥っていた
- ロズワール邸にいた理由はエキドナの設置判断であり、ロズワール陣営への忠誠ではない
- パックは同じエキドナ製の人工精霊で、ベアトリスから『にーちゃ』と呼ばれる
- 第四章129話『――俺を選べ』でスバルと新契約を結び、四百年の呪縛から解放される
- 直後の大兎戦でアル・シャマク(空間作用系陰魔法の最上位)を発動し殲滅に貢献
- 陰魔法はシャマク系・ムラク(重力軽減)・ミーニャ系・ヴィータなど多岐にわたる
- アニメ声優は新井里美、一人称『ベティー』、スバル呼称『ベア子』
禁書庫で沈黙を抱きしめていた少女は、白紙の本の前で立ち尽くしていた時間を捨て、「俺を選べ」という一言に応えて自分の未来を選び直した。Re:ゼロが長い物語のなかでベアトリスに費やしてきた四百年分の孤独とその解放こそ、この作品が執拗に描き続ける「過去を引き受けながら未来を選ぶ」という主題の、もっとも純度の高い結晶なのである。







