【Re:ゼロから始める異世界生活】アル(アルデバラン/CV関智一)の正体をネタバレ解説|真名ナツキ・リゲル、『魔女』に創られた『後追い星』と権能『領域』

Re:ゼロから始める異世界生活は、第三章の王都で、スバルの前に一人の隻腕の男を立たせる。漆黒のフルフェイスの兜で顔を隠し、王選候補プリシラ・バーリエルを「姫さん」と呼び、スバルを「兄弟」と呼ぶ。自分も同じ世界から来たと言い、この世界に来て十八年ほどになると語った男、アル。第九章『名も無き星の光』で、彼は監視塔の書庫でスバルを禁術で封じ、世界を敵に回す。その戦いの果てに叫ばれたのが、もう一つの名前だった。――ナツキ・リゲル。本稿は、このアル(アルデバラン)の正体を、原作Web版の本文に即して「どこから来たのか」「何者に創られたのか」「なぜスバルを取り除こうとしたのか」「最後にどうなったのか」の順に整理し、本文で確定していることと、示唆にとどまることを分けて解説する。
【重大ネタバレ警告】本記事は、原作Web版(小説家になろう)の第三章10・13話、第五章61話、第七章36・38話、第八章36・43・73話・終幕、第九章11・12・14・16・52〜59話・終幕、第十章5・6・30話の内容を扱う。アルの出自、真名、権能、第九章での裏切りとその結末に踏み込む。書籍版では、第九章は39巻(2024年9月発売)から始まり、44巻の公式紹介文が「アルデバランとの戦いが決着し」で始まる。アニメは4th season(第六章)まで放送済みで、第九章は映像化されていない(詳細は後述)。Web版・書籍版ともに未読の方は閲覧を推奨しない。
結論:アルの正体を一覧で整理する
最初に、第九章までの本文で確定している事項をまとめておく。アルの正体は一言で言い切れるものではなく、出自・名前・能力・目的がそれぞれ別の話数で明かされる。
| 項目 | 本文で明かされた内容 | 根拠となる話 |
|---|---|---|
| 出自 | 約四百年前、『魔女』によって「創られた」存在。アル自身がそう考えている。『魔女』を「先生」と呼ぶ教え子だった | 第九章52・53話 |
| 創った『魔女』 | 地の文が『強欲の魔女』と明記する。ただし、ベアトリスを造ったエキドナと同一人物かは本文で整理されていない | 第九章53・57・59話 |
| 名前 | 「アルデバラン」は『魔女』が呼んだ名で、『後追い星』とも名付けられた。真名は「ナツキ・リゲル」で、親からもらった名とされる | 第九章56〜58話 |
| 隻腕と封印 | 絶対に負けられない「初陣」に敗れて左腕を失い、『魔女』の禁術オル・シャマクで封じられた。目覚めた場所は剣奴孤島ギヌンハイブ | 第九章52話 |
| 能力 | 権能『領域』。自分で決めた地点(マトリクス)から、死ぬたびにやり直せる | 第九章12・52・55話 |
| 目的 | 「世界を終わらせる『魔女』を生まない」。そのためにスバルを取り除こうとした | 第九章12・58・59話 |
| 結末 | スバルの『死に戻り』で第九章の出来事は巻き戻り、アルは監視塔で禁術を放つ直前に、スバルとベアトリスのオル・シャマクに封じられた。黒い魔玉(スバルの呼び名は「アル玉」)の中にいる | 第九章59話、第十章5・6話 |

図1のとおり、アルの人生は「約四百年前」と「約十八年前から現在」の二つに分かれ、その間を封印の時間が隔てている。本編でスバルが知っていたアルは、後半の十八年の姿だけだった。
アルとは:プリシラの従者として現れた「同郷」の男
アルの初登場は第三章10話『合流とお別れ』である。王都の大通りで、エミリアの隣に立っていたのが、首から上を漆黒のフルフェイス型の兜で覆い、左腕のない男だった。第三章13話『同郷』では、プリシラに「同郷か? アル」と問われて「たぶん、な」と答え、スバルと同じ世界から来た者として自己紹介する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 通称 | アル。第八章終幕でプリシラがアルを「アルデバラン」と呼ぶ場面は、スバルにとって「耳馴染みのある、しかし彼に対して使われるのは初めて聞いた呼び方」として描かれる |
| 立場 | 王選候補プリシラ・バーリエルの従者。プリシラを「姫さん」、スバルを「兄弟」と呼ぶ |
| 外見 | 漆黒のフルフェイス型の兜、隻腕(左腕がない)、軽装。兜は剣奴孤島から持ち出したもの(第九章53話) |
| 本人の説明(第三章13話) | 「確実じゃないが」この世界に来て十八年ほど。自分の過去は「いわゆるエピソードの記憶の欠落」で覚えておらず、実年齢も分からないが四十前後だと思う。召喚されたのはスバルと同じくらいの年代だったか、と口にする |
| アニメCV | 関智一(アニメ公式サイトのキャラクター紹介、3rd seasonのキャスト一覧)。1st seasonのキャスト一覧では役名「アルデバラン」、CVは藤原啓治 |
第九章を読んだ後で第三章13話を読み返すと、アルの自己紹介には事実と、事実を伏せた説明が混ざっていたことが分かる。「十八年」はおおむね本当で、第九章55話の地の文も「あの黒球から解放されてからの十八年間」と書く。一方、「召喚された」という前提で話す点は、第九章52・53話で描かれる経緯(『魔女』のもとで育ち、封印から目覚めた)とは合わない。記憶の欠落についても、アルは52話で『魔女』の言葉を「昨日のことのように思い出せる」と語っており、そのまま事実とは言えない。ただし53話には、剣奴孤島の十年で『魔女』の顔も声も「思い出せない」ほど記憶が擦り切れていく様子が描かれており、第三章の説明のすべてが作り話だったとも言い切れない。
【考察】「自分が狂人かもしれない」という告白 第三章13話でアルは、スバルに「オレも同郷と会えたのはお前が初めてだ。正直、ひょっとしたらオレは自分が狂人かもしれないと疑ってもいた」と打ち明ける。第九章53話では、剣奴孤島での十年のあいだ、アルが『魔女』の実在そのものを疑い、自分は「『魔女』に魅入られた気狂い男なのではないか」と眠れぬ日々を過ごしたことが描かれる。第三章の言葉は「同郷がいない孤独」の話として読めるが、第九章を知った後では、本当の孤独の中身を伏せたまま口にした言葉のようにも読める。
第九章以前に置かれていた伏線
- 第五章61話『領域の被害者』:水門都市プリステラで『色欲』の大罪司教カペラと戦うアルは、「確かにオレが百回死んでも、てめぇが殺せるかは怪しいな。実際、もう半分ぐらいいってんだが……」と言い、別の場面では「領域がほどけたら死ぬ!」と叫ぶ。嘔吐しながら「今回は被害者の方で……本気でついてねぇ」とこぼす場面もある。何度も死んでいるかのような台詞と「領域」という言葉が、すでにここで出ている。第九章55話の題名が『領域の加害者』であるのは、この話と対になっている
- 第七章36・38話:アルは剣奴孤島ギヌンハイブで「ずっと剣奴やってた」と語る。第七章38話では、八年前の皇帝即位直後にギヌンハイブで起きた反乱を、アルとアラキアが止めたことが明かされる
- 第八章36・43話:帝都ルプガナでセシルスと行動する場面では、アルの視点で「領域解除、然るのちの再展開、思考実験再動」「思考実験再動、領域再定義」と唱え、「マトリクス」を更新する様子が描かれる。第八章36話では、セシルスの言動が「アルが持っている権能をほとんど言い当てている」とアルが恐れる。仕組みの名前は、第九章より前にすでに地の文に出ていた
- 第八章終幕『プリシラ・バーリエル』:消えていくプリシラが、スバルに「貴様とアルの権能は運命の条理さえ変える力があろう」と告げる。アルに権能があることを、プリシラは知っていた
第九章52・53話:『魔女』に創られた『後追い星』
アルの過去が正面から語られるのは、第九章52話『アルデバランⅠ』と53話『アルデバランⅡ』である。52話の冒頭には、アルが「昨日のことのように思い出せる」という『魔女』の言葉が置かれる。
「――誰も、ボクが創った君には勝てないよ」
アルを創り、育てた『魔女』の言葉。第九章52〜59話を通して何度も繰り返され、アルにとっては「呪いであり、慰めであり、縛めであり、許し」だった(第九章53話)。
52話の地の文は、はっきりと「今のアルデバランは『魔女』によって創られたモノだ」と書く。アルにとって『魔女』は「生まれてから最も長い時間を一緒に過ごした」相手で、アルは彼女を「先生」と呼んだ。『魔女』は権能を使いこなすための性能実験と称して、百万を超える回数の『死』をアルに与えたという。
アルに与えられた存在意義は、『後追い星』として、ある一人の『魔女』を殺すことだった。52話によれば、そのころ生き残っていた『魔女』は、アルの『魔女』を除けば、ほかの『魔女』たちの「直接的な、あるいは間接的な死因になった一人」しかいない。本文はここで名前を出さないが、第九章53話で語られる大罪の『魔女』たちの最期(『嫉妬の魔女』だけが「世界の果てに封じられ」た)と合わせると、『嫉妬の魔女』を指すと読むのが自然である。
初陣の敗北、左腕の喪失、そして長い封印
しかしアルは、「生涯で唯一、敗戦の許されない初陣」に敗れる。第九章53話は、その相手を「数億も挑んで、それでも勝てなかった相手」と書く。左腕は「肩口から影に持っていかれた」。アルを庇った『魔女』は手足を全て失い、死を待つだけの姿になる。その『魔女』は「勝利条件を変更しよう」と言い、新たな目標を「二次被害」の阻止に置き直す。そして「――星が悪かったのさ」とアルを責めずに告げ、最後の詠唱「オル・シャマク」を唱えた。夢の城で再会した『強欲の魔女』も「第一目標は頓挫したが、第二目標はいまだ健在だ」と語っており(第九章55話の回想)、第九章のアルはこの「二次被害を防ぐ」計画の続きとして動いている(第九章53話)。
次にアルが目を覚ましたのは、剣奴孤島ギヌンハイブだった。『魔女』のことを口にすると「何百年も前の話だろ?」と返される(第九章52話)。世に残る『魔女』の話は『嫉妬の魔女』だけになっており、『強欲の魔女』の名を出すと「なんだそりゃ。お前の妄想じゃないのか?」と返される。アルは剣奴として『領域』を使いながら十年を生き延び、やがて剣奴の一斉蜂起を機に島を出る決心をする(第九章53話)。この蜂起と、第七章38話で語られた「八年前の反乱」は、新皇帝の時代のギヌンハイブの反乱という点で一致しており、同じ出来事と読める。
島を出たアルは、魔女教の大罪司教とのやり取りを『領域』で何度もやり直して情報を引き出し、ついに夢の城で『魔女』と再会する。地の文は、その再会を「十数年ぶりの、相手にとっては四百年越しの再会」と書き、「実在した『魔女』――否、『強欲の魔女』」と呼ぶ。
【考察】『後追い星』という名前の意味 アルデバランはおうし座の一等星の名で、アラビア語で「後に続くもの」を意味し、プレアデス星団(日本名「昴」)の後を追うように昇ることに由来するとされる。第九章終幕の地の文は、アルを「『昴の後追い星』を名乗り」と書いている。昴(スバル)の後を追う星、という名付けは、スバルを取り除くという第九章のアルの行動と重なる。第九章56話の地の文はアルを「アルデバランと名付けられ、『後追い星』の運命を背負わされた存在。ナツキ・スバルを世界から取り除き、『魔女』が悲願した願いを叶える」と書き、11話はスバルを取り除く戦いを「一度は放棄した自分の本来の目的」と呼ぶ。スバルを取り除くことは、『後追い星』の宿命の一部として語られている。ただし、名付けの時点で『魔女』が何を意図していたのかまでは書かれていない。
アルを創った『魔女』は誰か:強欲の魔女と「二人のエキドナ」
アルの『魔女』は、白と黒の二色で表される美貌、一人称「ボク」、草原の白いテーブルでの茶会と、第四章の聖域でスバルが会ったエキドナと同じ特徴で描かれる。第九章53話の地の文も「『強欲の魔女』」と明記している。ここまでは確定と言ってよい。
ただし本文は、アルの『魔女』を「ベアトリスを造ったエキドナ」と同一視することには慎重である。手掛かりになる記述を並べる。
| 話 | 本文の記述 |
|---|---|
| 第九章52話 | 『魔女』が「親でもないボクが親らしい経験を上っ面だけなぞろうとしても都合が良すぎるというものか。……ベアトリスを造ったなら、あちらは体験できたのかな」と自問する |
| 第九章55話 | 第九章53話の末尾で再会した『強欲の魔女』について、55話の回想は「変わり果てた」と書き、アルは「自分の知る『魔女』を返せ」と斬りかかった |
| 第九章57話 | 「アルデバラン」という呼び名さえも、「『魔女』が『強欲の魔女』と成り果てたときから傷に変わった」 |
| 第九章59話 | アルは、ベアトリスはデザインされた存在だと考えつつ、それを意図したのは「自分の知る『魔女』とは別の、『魔女』の係累」だと見ている |
| 第十章30話 | スバルが「俺の知ってるエキドナと、ベア子の母親のエキドナ」を「特徴はおんなじでも、別人」と整理し、仮説を立てる |
【考察】アルの『魔女』はベアトリスの「お母様」とは別人か 52話の「ベアトリスを造ったなら、あちらは」という言い方と、59話の「自分の知る『魔女』とは別の」という見方を合わせると、アルの『魔女』はベアトリスを造った存在とは別に数えられているように読める。第十章30話でスバルは、墓所のエキドナは若い頃の彼女で、ベアトリスの母はその後の姿ではないかという仮説を心中で立てるが、これはあくまでスバルの仮説である。アルの『魔女』がどちらに当たるのか、二人のエキドナがどういう関係なのかは、第十章37話時点の本文では明かされていない。
真名「ナツキ・リゲル」:スバルとの関係はどこまで明かされたか
アルの真名が叫ばれるのは、第九章56話『ペトラ・レイテ』の終わりである。フェリスの治癒魔法を受け続けて『死』を封じられ、『領域』に頼れなくなったアルは、最後の手段として『暴食』のロイ・アルファルドに自分の『名前』を喰わせ、全員の記憶から消えて盤面をひっくり返そうとする。そのために叫んだのが「リゲル。――ナツキ・リゲルだ!!」だった。
第九章57話の地の文は、これを「『後追い星』を名乗る前の、アルデバランの真名」と書き、さらに次のように説明する。アルにとっては「一度も直接呼ばれたことのない親からもらった名」より、『魔女』から何度も呼ばれた「アルデバラン」のほうが耳に馴染んでいる。アル自身、「自分が『本来』何者だったのか、そんなことすらわからない」。

「ナツキ」という姓が、スバルと同じであることは偶然とは考えにくい。第九章58話で、この叫びを聞いたペトラは「ナツキ・リゲル。――その響きは、明らかにナツキ・スバルと無縁ではない」と感じ、リゲルが星の名であること、ナツキがスバルと同じ家名であることに戸惑う。しかし本文は、二人の関係をここで説明しない。示唆にとどまる記述を挙げる。
- 親からもらった名:真名ナツキ・リゲルは、アルが一度も直接呼ばれたことのない「親からもらった名」(第九章57話)。アルは「命を親を選べない」とも考える
- スバルの過去を知っている:監視塔の書庫で、アルはスバルについて、この世界に来る前の「両親との微妙なすれ違いや劣等感」まで知っていると心中で思う(第九章59話)
- 二つの星:同じ場面の地の文は「プレアデスとアルデバラン――否、スバルとリゲル」と二人を並べ、スバルを「星の名前をもらい、星の名前を付ける男」と呼ぶ(第九章59話)
- アル自身の『死者の書』:監視塔の書庫には、生きているはずのアル自身の『死者の書』がある。第九章12話でアルは、その本(題名は「オレの名前」)を探し、利用するために塔へ来たと明かし、14話ではラインハルトとの戦いが記録されたその本を竜殻の『アルデバラン』に読ませて記憶を同期させる。59話でも「自分とあの男の『死者の書』」を探していた。スバルの『死者の書』『菜月・昴』も書庫にある(第九章11話)が、なぜ二人の本があるのかは本文で説明されていない
- エミリアへの呼び方:渓谷でエミリアを置き去りにする前、アルは「それ以外の、自分と彼女との正しい関係性の呼び方」を、今は口にする勇気がないと考える。第九章52話には、アルが「本能的にエミリアに弱い」という記述もある。53話で剣奴孤島の反乱の際に助けた銀髪の犬人の少女について、地の文は「アルデバランと関係する銀髪の人物とは何の関わり合いもない」と書く(第九章52・53話)
【考察】スバルの子なのか 上の記述を並べると、ナツキ・リゲルという名を付けた「親」がスバルであり、アルがスバルの子にあたる存在ではないか、という読み方が浮かぶ。エミリアについての「正しい関係性の呼び方」という言い回しも、その方向を思わせる。ただし、本文はアルを「スバルの子」とも「未来のスバル」とも書いていない。そもそもアルは約四百年前に『魔女』によって「創られた」存在であり、親からもらった名を持つこととどう両立するのかも説明されていない。現時点で言えるのは、「真名がナツキ・リゲルで、親から与えられた名である」ところまでである。
権能『領域』:自分で決めた地点からやり直す力
アルの能力は、第八章36・43話でアル自身の視点から「マトリクス」の更新として描かれ始め、第九章12話では「領域展開、マトリクス再定義」という常套句とともに、55話『領域の加害者』では仕組みが詳しく語られる。
- 由来:『領域』は「魔女因子所縁の権能」だが、アルは魔女因子の所有者ではない。『魔女』はこれを「番外」「特例」と呼び、魔女因子に適合した存在との浅からぬ繋がりが、生まれながらに権能の扉を開かせたのではないかと推測していた(第九章55話)
- やり直し:アルは『領域』を作り、定めた時間と空間の中でだけ、記憶を保ったまま無限に挑戦をやり直せる。戻る地点(マトリクス)は自分で更新し、ラインハルト戦では十五秒間隔で定義し直していた。一度更新すると、それより前には戻れない(第九章55・第九章14話)
- 範囲:『領域』には効果範囲があり、マトリクスを定めた位置から離れすぎると崩れる。転移で範囲外へ飛ばされたときは、外に出る前に自害してやり直した(第九章52・第九章14話)
- 弱点:やり直しの引き金はアル自身の『死』である。第九章56〜58話では、フェリスが恒常的にかけた治癒魔法がアルの致命傷を即座に治し、権能の発動を阻止した
- バグ:アルが自分の権能を疑ったとき、やり直しの主導権が同じマトリクス内の相手に移り、相手が抜け出せない『死』のループに陥ることがある。巻き込まれた者は多くが心を壊された(第九章55話)

図3のとおり、『領域』は『死に戻り』とよく似ているが、戻る地点を自分で決められる点が大きく違う。第九章55話では、スバルの『死者の書』を読んだペトラが「スパンが、ナツキ・スバルの『死に戻り』より短く、しかも自覚的」と見立て、ペトラの思い描くスバルは、野球ゲームの「手動セーブ」にたとえる。アル自身も第九章59話で、これを「自分とこの男と、世界でたった二人だけが持ち合わせた、権能という呪い」と呼ぶ。
【考察】『領域の被害者』と『領域の加害者』 第九章55話で『強欲の魔女』は、権能を使うときのアルを、極小の勝機を掴むために『領域』に縋る「被害者」、アルに『領域』を強いる相手を「加害者」と定義し、バグは「被害者と加害者間での主導権の交換」だと説明する。同じ話で、アルが倒れたバルガを見て「『領域』の加害者になったな」とつぶやくのは、加害者の側だったバルガに主導権が移り、終わらない繰り返しに閉じ込められたことを指す。第五章61話の題名『領域の被害者』は、カペラ相手に何度も死にながら粘り、「今回は被害者の方で」とこぼすアル自身を指していたと読める。普段は「被害者」として権能に縋るアルが、バグによって相手を「加害者」の地獄に閉じ込める。二つの題名の対比が、権能の二面性を表している。
なぜスバルを取り除こうとしたのか:プリシラの死と「世界を終わらせる『魔女』」
アルの行動の直接の引き金は、第八章終幕『プリシラ・バーリエル』である。夜明けの城壁で、プリシラはすでに屍人であったことが分かり、朝日の中で消えていく。アルはプリシラを右腕一本で抱きしめたまま、「兄弟! 頼む……頼む! 何も聞くな! 聞かなくていい! やってくれ! 姫さんを……プリシラを助けてくれ!!」とスバルに叫ぶ。スバルは城壁から身を投げてやり直そうとするが、プリシラ本人に止められる。プリシラは「たとえ貴様たちの力や祈りを以てしても、変えられぬことを望むものもいる」と告げ、アルの愛の告白を引き出して「――そら見よ、また妾の勝ちじゃ」と微笑む。そして「かくも世界は美しい。故に――世界は妾にとって、都合の良いようにできておる」と言い残して消えた。
第九章52話のアルは、レムの『記憶』を取り戻したスバルを「運命に抗い、運命に打ち勝った」と認めたうえで、「だが、しかし、それなのに――プリシラ・バーリエルは救わなかった」と考える。欲しかったのは「涙でも、傷でも、慰めでもない。ただ一人の、命だったのだから」。
ただし、アルの目的はプリシラの仇討ちだけではない。第九章59話でアルは、「沈んでしまった太陽」(プリシラ)の眩さに焼かれて「『後追い星』をやめた日」があったことに触れ、『魔女』との策を「一度は放棄した」と振り返る。プリシラを失ったことで、アルはその策に戻ったことになる。第九章58話では、自分の歩みを三つの失敗として振り返っている。

第九章58話の地の文は、アルの歩みを「ただ、世界を終わらせる『魔女』を生まない。――全てはそのための歩み」とまとめる。『魔女』の教えのとおりに『魔女』を殺そうとして失敗し、プリシラを王にすることで『魔女』を殺そうとして失敗し、初心に戻ってナツキ・スバルを除くことで『魔女』を殺そうとして失敗した。第九章59話では、アルの心中として「男のその愛を許し続ければ、やがて生まれる。――世界を終わらせる存在が」と書かれる。
【考察】なぜ自分の『領域』でプリシラを救えなかったのか プリシラは、『大災』の『魔女』に持ち去られた異界を燃やして脱出していた。第八章73話では、アルの腕から下りたプリシラが異界から「燃やして」出てきたと語り、そのあと「アル、ここは任せた」と言い残して『魔女』との対決に向かう。脱出が命と引き換えだったと分かるのは、夜明けの第八章終幕である。この点について、第九章56話の地の文は「アルデバランは肝心なときに、また、死ねなかった。この世界にとっての太陽を、沈ませてしまったときと同じように、また」と書く。アル自身は、プリシラを失ったことを、やり直すべきときに死ねなかった悔いとして抱えていると読める。一方で、『領域』で繰り返すのは「実際には数秒から長くとも数分」の時間であり(第九章52話)、だからこそアルは終幕でスバルに「やってくれ」と懇願したとも考えられる。二つの事情がどう重なっていたのかは、本文で整理されていない。なお、「世界を終わらせる『魔女』」が具体的に誰を指すのかは、第十章37話時点の本文で明かされていない。
第九章でアルがしたこと
第九章のアルの行動は長く複雑だが、正体に関わる部分を中心に流れを整理する。
- 監視塔行きの取り付け:アルは、プレアデス監視塔でプリシラの『死者の書』を探したいと願い出る。第九章12話では、周囲を納得させる過程に「四千六十一」(ロズワール)、「九百七十二」(ラムとレム)といった数字が添えられ、『領域』で重ねた試行の多さが示される。スバルに対しては「一度もしくじらなかった」。第九章59話のアルは、この捜索そのものを、計画のために用意した「カバーストーリー」だったと振り返る
- スバルとベアトリスの封印:三日の捜索期間の初日の夜、アルは『魔女』から口伝で受け継いだ禁術「オル・シャマク」で、スバルとベアトリスを黒い魔玉に封じる。「オレは、お前を殺さない」と言いながら(第九章11話の末尾は、スバルの視点の暗転のあとにアルの視点の独白が続き、12話がアルの側から経緯を語り直す)
- 共犯者:ヤエ・テンゼン、ハインケル・アストレア、そして空になっていた『神龍』ボルカニカの竜殻にアルの『記憶』を宿した『アルデバラン』が、世界を敵に回す「共犯者」として並ぶ(第九章14・16話)。ロイ・アルファルドも呪印で従わせていた
- ラインハルトの足止め:アルは『剣聖』を封じるために『嫉妬の魔女』まで動かした。ラインハルトは『嫉妬の魔女』の残影と三日三晩戦うことになる(第九章58話)
- モゴレード大噴口へ:スバルを封じた魔玉は、カララギ方面へ向かった先の「世界の彼方に通じる穴」モゴレード大噴口に捨てるはずだった(第九章53・58話)。アルはスバルを殺すのではなく、世界から「取り除く」ことを選んでいた
これに対し、フェルトやロム爺、ラム、ガーフィールらが加わった『アルデバスターズ』が立ちはだかる。『憂鬱の魔女』となったペトラの『圧縮』、ラムの指揮、フェリスの治癒魔法という切り札が重なり、アルは『領域』を封じられる。最後は『不死鳥の加護』で戦場に蘇ったラインハルトが、アルの胴を手刀で断ち、魔玉を取り出して『龍剣』レイドで断ち割った。解放されたスバルが「――レム!!」と叫び、レムの鉄球が放たれる(第九章58話)。
第九章の結末:死に戻りと「必ず救う」の誓い
第九章59話『――じゃない』で、場面は監視塔の書庫に戻る。アルの視点から始まるこの話で、アルは三日の捜索の最中、スバルにオル・シャマクを仕掛けようとする。しかし、聞こえた「――オル・シャマク」はアルの詠唱ではなかった。スバルが詠唱し、ベアトリスが魔法を構成してマナを通した禁術が先に発動し、アルは「絶対に勝たなければならなかった戦いに、また負けた」。一部始終を見ていたエッゾは、アルも「マナを練り、術式を編んでいた。一手違えば、立場は逆転していた」と語る。
59話後半のスバルの視点で、何が起きたのかが分かる。ペトラたちはスバルを『死に戻り』させ、取り返しのつかない多くを取り返させる道を選んだ。ベアトリスは、魔玉の中に一緒に封じられながら禁術の術式を解読し、『死に戻り』するスバルに切り札を持たせていた。こうして、第九章で起きた「悪いこと」は「なかったこと」になった。巻き戻る前の出来事を知っているのは『死に戻り』したスバルの側だが、スバル自身も「起こったことの全部を知っているわけではない」と認めている。
魔玉を握りしめて泣くスバルは、ペトラたちに囲まれながら決める。「アル、お前は俺のこと、許せないぐらい嫌いだったみたいだけど」「――俺は必ず、お前も救ってみせる」。第九章終幕の地の文は、スバルが王都へ向かう理由を「アルデバランを、『昴の後追い星』を名乗り、スバルと同じ力で以て敵対し、その上で必ず救うと決めた存在のために」と書く。
第十章でも、アルは魔玉の中にいる。スバルはこれを「アル玉」と呼んで首から下げ、第十章6話では、もし今『死に戻り』すれば、直近の再開地点は「プレアデス監視塔で、スバルがアルをオル・シャマクで封じ込める前」だと考える。そして、もう一度あの場面に戻ってアルと相対する勇気がない、とも。同じ話でスバルはエミリアたちに、アルを凶行に駆り立てた理由の「根本のところを話し合う余地は与えられなかった」と説明している。
【考察】「大嫌い」と「――愛してる」 第九章58話の終わり、アルは自分を救いたいとでも思っていそうなスバルの眼差しに「大嫌いだ、クソお――」と言いかけ、鎖の音に遮られる。その直後に一行だけ置かれた「――愛してる。」は、続く59話の冒頭でも繰り返される。誰の言葉なのかを本文は明示しない。直前に鉄球を放ったレムの思いとも、ほかの誰かの言葉とも読める余白が残されている。アルの「大嫌い」という感情が、スバルの「必ず救う」という誓いとどう向き合うのかは、第十章以降に持ち越されている。
第九章以前の正体説はどうなったか
第九章より前、アルの正体はファンのあいだで繰り返し考察されてきた。考察メディアciatrの記事は、異世界から来たこと、死に戻りに近い能力、スバルと似た口調などの共通点からアル=スバル説が浮上したと紹介し(記事「『リゼロ』スバルの正体は?フリューゲルやアルデバランとの関係や傲慢の大司教説も考察」)、別の記事「『リゼロ』アルデバランの正体は?能力や目的・裏切りの真相について考察」では「スバルのコピー説」「別世界線での未来のスバル説」「傲慢の大罪司教説」を並べている。これらを、第九章までの本文と突き合わせると次のようになる。
| 説 | 第九章までの本文との関係 |
|---|---|
| アル=スバル本人説 | 本文はアルの真名を「ナツキ・リゲル」とし、親からもらった名だとする。ペトラもスバルも、アルを別人として扱っている。本人説はそのままの形では本文と合わない |
| 別世界線での未来のスバル説 | アルは約四百年前に『魔女』に「創られた」存在として描かれ、スバルが時間をさかのぼった姿だとは書かれていない。本文の記述とは合わない |
| スバルのコピー説 | 「『魔女』に創られた」という点は本文と重なる。ただし、何をもとに創られたのかは、第十章37話までのWeb版本文では書かれていない |
| 傲慢の大罪司教説 | 『領域』は魔女因子ゆかりの権能だが、アルは「魔女因子の所有者ではない」と明記される(第九章55話)。アルは魔女教と同一視されることを嫌っていた(第九章53話)。本文の記述とは合わない |
なお、前者のciatr記事は、リゲルという名前がIF作品に登場するスバルとレムの子と同じだと指摘している。本稿ではそのIF作品の本文までは確認していないため、参考情報にとどめる。
【考察】「スバルとは別人。だが無縁ではない」という着地 第九章が示したのは、アルが「スバル本人」でも「未来のスバル」でもなく、ナツキ・リゲルという別の名を持つ存在だということである。その一方で、ナツキという姓、スバルの過去を知っていること、『昴の後追い星』という名付けが、二人の間に何らかのつながりがあることを強く示している。本人説は外れても、「スバルと深くつながった別人」という方向は、第九章でかえって補強されたと言える。
アニメ・書籍版での扱い
アニメ公式サイトのキャラクター紹介は、アルを「漆黒のフルヘルムで頭部を覆い、首から下を山賊風ファッションに包んだ隻腕の男」「戦闘力より、その奇抜な格好や発言を気に入られてプリシラの騎士となった変わり種」と紹介し、CVは関智一である。1st seasonのキャスト一覧では役名が「アルデバラン」、CVは藤原啓治だった。藤原啓治は2020年4月12日に逝去しており(ファミ通の報道)、3rd seasonのキャスト一覧では「アル:関 智一」と表記されている。
| 媒体 | アルの第九章との関係(2026年10月23日時点) |
|---|---|
| アニメ | 3rd seasonの公式あらすじでは、第57話『最も新しい英雄と最も古い英雄』でアルが対話鏡を手に取り、第63話『戦士の称賛』で地下水道のカペラと死闘を繰り広げる。4th season(2026年4月〜9月、喪失編全11話・奪還編全8話)は第六章のプレアデス監視塔編で、アルが中心となる第七〜九章は映像化されていない |
| 書籍版(MF文庫J) | 39巻(2024年9月25日)の紹介文はルグニカへの帰還と「失意の同郷者の心を慰めるための旅」を予告し、アルの「始めるよ、先生。――オレがオレであるために」を引く。40巻の紹介文は、アルが一行を裏切り世界を敵に回すと宣言する内容。43巻(2025年12月25日)の紹介文は『魔女』の「――誰も、ボクが創った君には勝てないよ」を引き、44巻(2026年3月25日)は「アルデバランとの戦いが決着し」で始まる。45巻(2026年6月25日)の公式紹介文には「大逃走の第十章!」とあり、最新刊は46巻(2026年9月25日) |
書籍版で第九章が43巻と44巻のどちらで終わるのか、真名が書籍の何巻で明かされるのかは、公式紹介文からは特定できなかった。本稿の話数はすべて原作Web版のものである。
まとめ:アル(アルデバラン)の正体
- アルは約四百年前に『魔女』によって「創られた」存在で、『魔女』を「先生」と呼ぶ教え子だった。地の文はその『魔女』を『強欲の魔女』と書く(第九章52・53話)
- 「アルデバラン」は『魔女』が呼んだ名で、『後追い星』とも名付けられた。真名はナツキ・リゲルで、親からもらった名とされる(第九章56〜58話)
- 左腕は約四百年前の初陣で失った。『魔女』のオル・シャマクで封じられ、約十八年前に剣奴孤島で目覚めた(第九章52・53・55話)
- 権能『領域』は、自分で決めた地点から死ぬたびにやり直す力。魔女因子ゆかりだが、アルは因子を持たない(第九章55話)
- 目的は「世界を終わらせる『魔女』を生まない」こと。プリシラの死を経て、スバルを取り除く道を選んだ(第九章58・59話)
- 第九章の結末では、スバルの『死に戻り』でアルの企ては実行前に止められ、アルは「アル玉」の中に封じられた。スバルは「必ず救う」と誓っている(第九章59話・終幕、第十章6話)
- スバルとの血縁、二人のエキドナとの関係、「世界を終わらせる『魔女』」が誰かは、第十章37話時点で未解明
兜の奥の顔を見せないまま、アルは「同郷」の兄弟分としてスバルの隣に立ち続けてきた。第九章で明かされたのは、その兜の下にあったのが、四百年前の約束と、一人の『太陽姫』への愛と、スバルへの複雑な感情だったということである。「――星が悪かったのさ」。『魔女』がアルを責めずに告げたその言葉を、アルは第九章で何度も自分に言い聞かせる。その星の巡りがどこへ向かうのかは、まだ描かれていない。
出典・確認範囲について
本記事は、小説家になろうで公開されている原作Web版の本文(第三章1〜13話、第五章61話、第七章36・38話、第八章36・43・73話・終幕、第九章全話のうち11・12・14・16・52〜59話・終幕を中心に)を確認して執筆した。第十章は2026年10月23日時点で公開されている37話『執行者』までを取得し、アルに触れる話(第十章1・4・5・6・13・25話など)と、エキドナについてスバルが整理する第十章30話を確認した。「第十章37話時点で未解明」とした点は、この範囲で該当する記述が見つからなかったという意味である。第七章・第八章も全話を取得し、『領域』『マトリクス』の語が出る話(第八章36・43・65・74話)を確認した。アニメの情報はアニメ公式サイトのキャラクター紹介・STAFF&CAST(1st・3rd season)・3rd seasonのストーリー・4th seasonの放送情報、書籍の情報はKADOKAWA公式の商品ページ(43〜45巻)とBOOK☆WALKER(39・40・46巻)、考察説はciatrの記事で確認した。
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わ〜、アルの正体の記事だ!
ちょっとネタバレ注意なんだね〜。
兜の下にずっと隠れていたアル。
「ナツキ・リゲル」って名前が叫ばれるところ、想像しただけで胸がぎゅっとなるよ〜!
プリシラのためにずっと一人で抱えてきたなんて…泣けちゃう。
『後追い星』っていう呼び名も、なんだか切ないね。
スバルが「必ず救う」って誓うところ、ぜひ最後まで見届けたいなぁ!
ちなみにアルデバランはアラビア語で「後に続くもの」を意味し、プレアデス星団(昴)の後を追うように昇る星だと言われている。「後追い星」という名付けは、その由来をそのまま背負わせた呼び名なんだろう。昴の名を持つスバルを追い、取り除こうとする存在として、これ以上ないほど皮肉が効いている。ネタバレ注意。