JOKERにジョーカーはいない説
2019年公開の映画「JOKER」。
結末が大きな話題になっていますね。
あのラストシーンのせいで(おかげか?)リピートして何度もジョーカーを見ている、なんて人も多いみたいです。
ラストについては、諸説あり、大きく分けると以下の2つじゃないでしょうか。
- 回想説
- 妄想説
で。
回想説には、2分類あって、それはラストのシーンが、①逮捕後直後である説と、②いつだかは知らない未来から回想している説ですよね。
①の場合、「JOKERビギンイング」的な位置の話になり、
②の場合は、「JOKERファイナル」的な位置の話になります。
で。
映画館に足を運ぶまでは、予告を見た限り、ほとんどの人が
①「JOKERビギニング」的な話だと、期待して見に行ったのではないでしょうか。
だって、ほら、ジョーカーってアメコミの原作でも出自不明ですし。
正確には、何度も語られてはきたけれど、そのどれもが正解と、断定できるものではないっていう意味ですが。
ジョーカー誕生秘話を見ることができる!
そんな期待を胸に、視聴した結果として、それを裏切られたくない人は、
①の「JOKERビギニング」説を選んだらよいのではないでしょうか。
「そうじゃない! これはジョーカーというヴィランの、アルファであり、オメガである。最初であり、最後である。はじめであり、おわりである話なのだ!」
というニコラ・テスラ的スケールで考える人は、②の「JOKERファイナル」説を選びとるとよいでしょう。
そして、物語を台無しにするのが大好きなそこのあなたは、
妄想説を選ぶことでしょう。
物語を台無しにする、ってのはかならずしも悪いことばかりではないです。
たとえば、江戸川乱歩なんかも、自分の癖として、「最後に物語を台無しにしたくなる」なんていってますし(短編集の自作解説を参照)。
最後の一言で、物語をすべてひっくりかえす。
そんな仕組みは、読み手としてはぞくぞくしますし、作り手としてもあこがれますよね。
といったものの、「JOKER全編がただの妄想なんです」では、
夢落ちとなんにも変わりません。
なので、きっともうひとひねりはあるだろうと、考えてみた結果が、
「JOKERにジョーカーはいない説」です。
「JOKERってタイトルなのに、ジョーカーが出演してないわけないじゃん」
「それじゃ詐欺じゃん」
「そんの場合「JOKER何?」なんだよ」
なんて声もあるかもしれませんが、
個人的にはなしではないと思います。
俗にいう「信頼できない語り部」という技法のものと同じと考えることもできるでしょう。
JOKER考察1:信頼できない語り部とキチガイ地獄
ミステリーの世界ではあまりいい意味では使われない用語かもしれませんが、一般的な作品においては、非常に魅力的な技法だとおもいます。
信頼できない語り部にも、いろいろと種類はありますが、なかには読み手をミスリードすることだけを目的とした悪質なものもありますが、JOKERの場合は、それではなくて、「精神的に問題のある語り部」というタイプに類するかと思います。
夢野久作のキチガイ地獄なんてまさにその典型です。
話の筋もにてますよね。
場所は精神病院ですし。
自分のことを他人のように、他人のことを自分のことのように話す。
また、最終的には話聞かせていたつもりの相手すら、そこにはいない。
この「そこにはいない」というのがポイントで、そこにはいないのだとしたら、主人公はだれに向かってすべてを語っていたんだろうって考えたわけです。
それは、作中にでてくる相手にではなく、読み手であるぼくらにむかって語りかけていたんじゃないでしょうか。
デッドプールとある意味同じ能力ですね。
「第四の壁破り」ってやつです。
キチガイ地獄の語り部は、信頼できない語り部で、タイプが「精神的に問題のある語り部」なのは間違いありませんし、JOKERもそのように一見みえます。
そして、そうなのでしょう。
ただ、違いがあるのだとしたら、その「精神的な問題」のあり方だと思います。
JOKER考察2:クリミナルマインドで考えるJOKERのジョーカー
精神的に問題をかかえている犯罪者と、それに対処するFBIの活躍を描いたドラマ。
そうです、みんな大好きクリミナルマインドです。
彼らならジョーカーをどのように分析・分類するでしょうか。
精神的に問題をかかえている犯罪者は、一般的なイメージだとサイコパスと一括りにするかもしれませんが、精神的な問題、パーソナリティ障害にはもうすこし細かい分類があります。
そのなかでも、クリミナルマインドで一番登場するパーソナリティ障害は、統合失調型パーソナリティ障害ですよね。
ちなみに、一般的にいうサイコパスは、同じ分類方法でいうと、
反社会性パーソナリティ障害にあたります。
こちらは、B群なので、統合失調型パーソナリティ障害とは群もちがいますね。
統合失調型パーソナリティ障害はA群です。
Aとか、Bとか。
血液型かよ。
と、いうつっこみたくもなりますが、これもまた微妙にちがいます。
パーソナリティ障害は、A群、B群、C群に分かれていて、それぞれ奇異型、劇場型、不安型といわれています。
個人的には、Aプラマイ、Bプラス、Cマイナスって考えてます。
プラスとか、マイナスは、自分というパーソナリティと外界との力の働き方のイメージです。
で。
ジョーカーは、「笑えない世の中をおかしくしてやる」が座右の銘なわけで、そういう意味だと反社会性だけでなく、演技性と、ピエロの化粧からさっするに、自己愛性や、ソフィーとの疑似恋愛など境界性も含んだ劇場型というべきでしょうか。
ともあれ、B群劇場型です。
劇場型フルコースでお届けしております。
ゴーン・ガールのエイミーもこの典型ですね。
あれ。
クリミナルがマインドしている話にでてくる犯人像とちがいますね。
はい、ちがいます。
おいおい。
じゃあ、なんでクリミナルマインドなんか引用してんだよ。
はい、まっとくそのとおりです。
って。
そうではなくて。
B群劇場型といっているジョーカーは、ジョーカーのことです。
それは、バットマンと戦っているジョーカーであり、JOKERのなかで緑色の頭をした、ピエロ化粧のジョーカーです。
クリミナルのマインドでの分析対象になる相手は、アーサー、アーサーですらないかもしれない、精神病院にいた男のことです。
男はA群奇異型のパーソナリティ障害を煩っているのだとおもいます。
その統合失調型の妄想がうみだしたキャラクターこそが、JOKERのジョーカーなのです。※シャッターアイランドの主人公と同じですね。
男のうみだしたキャラクターがJOKERのジョーカーであるとして、
あの男はだれなのでしょうか。
アーサーでしょ?
アーサーなんですか?
ぼくはちがうと思っています。
なので、続いての考察は、妄想している男のはアーサーでなければ、だれなのか、について考察したいとおもいます。
JOKER考察3:JOKERの語り部はだれ?
答え:トッド・フィリップス(少年)
「タクシー・ドライバー(1976)」「キング・オブ・コメディー(1982)」
の影響を受けている部分が見られますし、それは監督のトッド・フィリップスも認めています。
で。
JOKERの時代設定ですが、およそ70~80年代としたざっくりとしたものだそうです。
で。
ここからですが、彼(トッド・フィリップス)は、ロサンゼルスタイムズのインタビューでこんなことをいっています。
フィリップス「わたしは子どもの頃、バットマンの漫画を読んで、ジョーカーの出自がはっきりしていないことを知ったんだ。で、わくわくして、たのしくて、あれこれいろいろ考えていたんだよ」
で。
トッド・フィリップスの生年月日は1970年12月20日です。
これらのことから、あの精神病院にいた(風)の男は、
トッド・フィリップスであり、彼が子どものころ読み、当時の作品に影響されながら、
出自のないジョーカーの出自をあれこれ、妄想してた集大成が、JOKERのジョーカーの話だった。
のではないでしょうか。
結論:JOKERは、「俺のJOKER」だった
子どものころに考えたヒーローの妄想話を、
そのヒーローの本当の話のように、世界のみんなに伝え、信じさせることができたら。
どんなに笑えることでしょうね。
フィリップス「おもしろいジョークが浮かんだんだ。きみには理解できないと思うけど」
JOKERニュース
JOKER興行収入、デッドプールを超える
JOKERの興行収入が、デッドプールの約800億円をR超え、R指定映画で歴代トップの約900億円に到達!
900億っていってもどの程度なのか、単位が大きすぎて、わかりにくいですよね。
日本の映画で例えてみると、一位が千と千尋の神隠しなのですが、それが300億程度。
つまり、千と千尋の神隠しの3倍。
千と千尋の神隠し+もののけ姫+ハウルの動く城の合計よりも大きい数字です。
3ジブリって考えると、すごいですね。
了