SILENT HILL f(サイレントヒルf)は、シナリオを竜騎士07が手がけた2025年発売のサイコロジカルホラーです。霧に閉ざされた町、激しい頭痛、人ではないものに変わっていく家族、そして現実とは違う異界。その光景を見て、ある漫画を思い出した竜騎士07ファンもいるのではないでしょうか。竜騎士07が原作を務め、小池ノクトが作画を担当した『蛍火の灯る頃に』です。祖母の葬儀で訪れた村が、一夜にして霧に囲まれた「地獄」に変わる物語で、KONAMIの岡本基プロデューサーも、竜騎士07をシナリオに起用する前にこの漫画を読んでいたと語っています。本記事では、両作の物語を結末まで比べ、共通点と違いを考察します。

ネタバレ注意:この記事は『蛍火の灯る頃に』(全4巻)と『SILENT HILL f』の両方について、結末までの重大なネタバレを含みます。鷹野美代子の正体、月の選択、狐面の男の正体、真エンドの内容などに触れています。

出典に関する注記:『蛍火の灯る頃に』の書誌情報・登場人物・導入のあらすじは、07th Expansion公式サイトと日本語版Wikipediaで確認した内容です。中盤から結末までの筋書きは、公式のあらすじでは公開されていないため、読者のネタバレ感想ブログ(YouComic、漫画の感想と日々のあたし)を照合してまとめています。『SILENT HILL f』のストーリーは日本語版Wikipediaと攻略サイトGame8に基づきます。岡本プロデューサーの発言はファミ通.com(2025年7月26日)のインタビューで確認しました。両作の関係について、竜騎士07本人やKONAMIが「『蛍火』をもとにした」と語った発言は確認できていません。本記事の類似点は筆者の考察です。

『蛍火の灯る頃に』とは|基本情報

項目内容
原作/作画竜騎士07/小池ノクト
出版社・掲載誌双葉社『月刊アクション』
連載2016年2月号(2015年12月25日発売)から2018年4月号まで(日本語版Wikipedia)
巻数全4巻(全22話)。第4巻は2018年4月12日発売
ジャンルサバイバルホラー

日本語版Wikipediaでは、本作は『ひぐらしのなく頃に』などと同じ「頃に」シリーズの1作とされています。ライターの五十嵐大氏は、ダ・ヴィンチwebの紹介記事で、『ひぐらし』『うみねこ』がミステリーであるのに対し、本作は本格的なホラーだと評しています。竜騎士07作品の中でも、謎解きより「異界からの脱出」に重きを置いた作品です。

『蛍火の灯る頃に』のあらすじ(ネタバレ)

導入|祖母の葬儀と消えた遺体

公式のあらすじによると、働きもせず自堕落な生活を送っていた忠村幸人は、祖母の葬儀のため、父親の故郷である平坂村を訪れます。過疎化が進む村で従兄弟や叔父たちと再会し、葬儀を無事に終えたと思われたその晩、祖母の遺体が行方不明になります。それが、村で起こる怪異の始まりでした。

日本語版Wikipediaによると、主な登場人物は次のとおりです。

  • 忠村幸人(ただむら ゆきと):26歳の長男。社会人経験はあるが、現在は無職
  • 忠村月(ただむら ゆえ):19歳。幸人の父・正志の再婚相手の連れ子。祖母の遺産問題の責任を感じ、献身的で控えめな性格になった
  • 忠村輝美(てるみ)・忠村輝也(てるや):叔父・信輝の子で、幸人のいとこ
  • 忠村正志・信輝・常雅:祖母の息子である三兄弟
  • 鷹野美代子(たかの みよこ):日本各地のオカルト伝承を研究する旅人

ネタバレ感想ブログによると、親族の仲は祖母の遺産をめぐって険悪でした。祖母が宝くじで当てた1億円を、月の母が事業に注ぎ込み、そのまま姿を消していたためです。月はそのことで親族から責められ、肩身の狭い思いをしていました。

中盤|霧に閉ざされた「地獄」

葬儀の夜、月は蛍火が光るのを目にし、直後に祖母の遺体が何者かに引きずられるように外へ出ていきます。翌朝には太陽が二つ昇り、村は霧に包まれていました。霧に入ると激しい頭痛に襲われ、村から出ることができません。

猟銃を持った鷹野美代子が一行を獣から救い、ここはもう元の平坂村ではなく地獄だと告げます。食べ物や傷はすぐに腐り、水は村の入口の手水や井戸など限られた場所でしか手に入りません。昼でも夜でもない限られた時間帯だけが、安全に動ける時間でした。やがて父や叔父たち三兄弟は人ではないものに変わっていき、幸人・月・輝美・輝也の4人は、祖母が納めたお守りと備蓄食料のある公民館にたどり着きます。

公民館で見つかった絵本には、怠け者の男が地獄に落ち、自分のせいで地獄の責め苦を受ける両親を弔って現世に戻る話が描かれていました。平坂村の旧名は、あの世とこの世の境「黄泉比良坂」に由来する「比良坂村」だったことも明らかになります。

結末|弔い、そして月の選択

4人は霧の流れが変わった朝、山の中の「地獄の釜」へ向かいます。そこで土に埋められ責め苦を受ける父たちを見つけ、祈りを捧げます。しかし、ただ祈るだけでは父たちは救われません。父たちを安心させるのは、自分たちがこれからどう生きていくかを伝えることだと気づいたとき、大量の蛍火が現れ、父たちは成仏します。輝美は妊娠していたことを明かし、子どもを産む決意を父に伝えていました。

翌朝、出口へ向かう一行を月が呼び止め、鷹野に「ここから先へは行けない」と告げます。鷹野がこの村に迷い込んだのは昭和58年で、彼女は自分でも気づかないうちに、すでに人ならざるものになっていたのです。漫画の感想と日々のあたしによると、錯乱した鷹野は月を撃ちますが、月はよみがえって鷹野のために祈ります(YouComicは、暴走した鷹野が月の弔いで大人しくなったと書いており、鷹野が化け物に変わったとする感想ブログもあるなど、この場面の描写は資料によって書き方が異なります)。そして、まだ誰にも弔われない亡者たちのために、自分はこの村に残ると決めます。

月を一人にはできないと叫ぶ幸人でしたが、光に包まれ、月以外の3人は現世に戻されます。1年後、輝美と輝也は輝美の娘・海輝を連れて村を再訪し、就職して立ち直った幸人と墓参りをします。幸人は、月との約束を死ぬまで果たし続けると誓っています。

岡本プロデューサーが語った『蛍火』

筆者が確認できた範囲で、両作をつなぐ公式な言及はKONAMIの岡本基プロデューサーの発言です。ファミ通.comのインタビュー(2025年7月26日)で、竜騎士07をシナリオに起用した理由について、岡本氏は次のように語っています。

「私自身が竜騎士07先生の大ファンでして、『ひぐらし』はもちろん、マンガ作品の『蛍火の灯る頃に』なども拝読していました。霧に包まれた村で人々が翻弄される物語を読んで、『この方ならきっとすばらしい『サイレントヒル』を描いてくださる』と確信し、お声がけさせていただきました」(岡本基、ファミ通.com 2025年7月26日)

「霧に包まれた村で人々が翻弄される物語」という言葉は、まさに『蛍火』の内容そのものです。つまり『蛍火』は、少なくとも竜騎士07が『サイレントヒル』を書ける作家だと判断される材料の一つだったことになります。ただし、これは起用の理由についての発言で、『SILENT HILL f』のストーリーが『蛍火』をもとにしたという意味ではありません。竜騎士07本人は同じインタビューで、本作は完全に『サイレントヒル』の世界観の中で作った物語だと語っています。

共通点1|霧と頭痛が「逃げられない場所」を作る

両作を比べると、多くの要素が重なります(図1)。

蛍火の灯る頃にとSILENT HILL fの設定や結末を比べた図
図1:『蛍火の灯る頃に』と『SILENT HILL f』の比較(蛍火は日本語版Wikipedia・ネタバレ感想ブログ、SILENT HILL fは日本語版Wikipedia・Game8から整理。比較軸は筆者の考察)

最もわかりやすい共通点は霧です。『蛍火』の霧は村を取り囲み、近づくと激しい頭痛に襲われて外に出られません。『SILENT HILL f』でも、突然立ち込めた霧が戎ヶ丘を包み、雛子は激しい頭痛に襲われて意識を失い、異界へと引き込まれます。霧はそもそも『サイレントヒル』シリーズの象徴ですが、「霧」と「頭痛」が同時に主人公を追い詰め、日常の場所を出口のない異界に変えるという組み合わせは、両作でよく似ています(図2)。

日常の場所から霧を越えて異界に閉じ込められる二作の構造を示す図
図2:霧の向こうの異界(各作品の描写を筆者が整理した概念図)

岡本氏が『蛍火』から『サイレントヒル』らしさを感じ取ったのも、この霧の使い方だったのではないかと考えられます。

共通点2|家の儀式から始まる悪夢

『蛍火』の悪夢は、祖母の葬儀から始まります。『SILENT HILL f』の悪夢の中心にあるのは、雛子の婚礼です。『SILENT HILL f』で霧が町を覆うきっかけは家での口論の後ですが、物語の核には婚礼の儀式があります。葬儀と婚礼という違いはあっても、どちらも家族や一族にとっての「家の儀式」が、悪夢の重要な位置を占めています。

儀式に集まる家族の関係も、どちらも穏やかではありません。『蛍火』では、祖母の遺産を月の母が使い込んだことで親族が険悪になり、月は居場所を失っています。『SILENT HILL f』では、Game8によると、借金を抱えた父が資産家との縁談を強く進め、雛子は望まない結婚を迫られています。どちらの作品でも、お金と家の事情が若い世代を追い詰めているのです。

共通点3|人ではないものに変わる親たち

『蛍火』では、父や叔父たち三兄弟が、霧の村の中でしだいに人ではないものに変わっていきます。ネタバレ感想ブログによると、叔父の一人は人の糞尿しか口にできない餓鬼のような姿になります。『SILENT HILL f』では、日本語版Wikipediaによると、雛子の父・寛太と母・君江がバケモノに変わって雛子に襲いかかります。

親が怪物になるという展開は、どちらの作品でも、子どもの世代が親の世代とどう向き合うかというテーマにつながっています。『蛍火』の若者たちは、地獄の釜で責め苦を受ける親を弔うことで救います。『SILENT HILL f』の真エンドでは、雛子が両親の本当の姿を知ることが、黒幕の存在に気づくきっかけになります。どちらも、親を憎むか許すかだけでは終わらない関係として描かれています。

共通点4|謎めいた案内人の正体

『蛍火』で一行を助け、地獄のルールを教える鷹野美代子は、最後にすでに亡者だったことが明かされます。ネタバレ感想ブログによると、フィルムに映像を焼き付けていたり、スマホゲームを不思議そうに見ていたり、平成になってから建てられた公民館を見落としていたりと、彼女の時間が昭和で止まっていることを示す手がかりが作中に散りばめられていました。

『SILENT HILL f』でも、闇の社殿で雛子を導く狐面の男と、霧の町で雛子を導く人形は、どちらも正体を隠した案内人です。狐面の男は雛子の結婚相手・常喜寿幸であり、人形は雛子の嫁入りを阻もうとする神でした(日本語版Wikipediaでは九十九神、Game8では宇迦之御魂神と説明されています)。頼りになるように見えた案内人が、実は異界の側の存在だったという仕掛けは、両作に共通しています。

共通点5|土地の信仰と「境界の村」

『蛍火』の平坂村は、黄泉比良坂を語源とする「この世とあの世の境」です。ダ・ヴィンチwebの紹介記事も、平坂村は現世と黄泉の世界が入り混じった空間になってしまっていると説明しています。『SILENT HILL f』の戎ヶ丘も、日本語版Wikipediaによると、水龍、御神木、付喪神、稲荷と信仰が移り変わってきた土地で、お稲荷様が美しい娘を花嫁にするため連れ去る「神隠し」の言い伝えが残っています。

どちらの町も、ただの田舎ではなく、古い信仰によって異界と隣り合っている場所として設定されています。竜騎士07は『SILENT HILL f』の時代設定について「現代と祟りの世界が実質隣り合わせになった場所」と語っていますが(ファミ通.com、2025年12月30日)、この言葉は平坂村にもそのまま当てはまりそうです。

共通点6|救いは「これからどう生きるか」の中にある

筆者が両作の最も深い共通点だと考えるのが、救いの形です。

『蛍火』の若者たちは、地獄の釜で親を救うために祈りますが、ただ祈るだけでは親は成仏しません。自分たちがこれからどう生きるかを伝えたとき、初めて親たちは救われました。輝美はこのとき子どもを産む決意を父に伝え、幸人は1年後、就職して約束を果たしています。

『SILENT HILL f』の真エンドでも、雛子は結婚するかしないかの答えをその場で出すわけではありません。日本語版Wikipediaによると、二人の雛子は、自分自身の未来について答えを出すために、内なる世界「静寂なる戎ヶ丘」で対話を続けます。怪物を倒すだけでなく、救いの過程で自分の生き方と向き合うことが描かれる点で、両作はよく似ています。

共通点7|異界に残る者がいる

両作の結末には、もう一つ印象的な重なりがあります。どちらも、誰かが異界に残り、主人公側がその場を脱出していくのです(図3)。なお、『蛍火』の3人は現世に戻りますが、『SILENT HILL f』の雛子たちが対話を続ける「静寂なる戎ヶ丘」は内なる世界とされており、単純に現世へ帰ったとは言い切れません。

蛍火の灯る頃にとSILENT HILL fの結末で異界に残る者と脱出する者を示す図
図3:異界に残る者、脱出する者(蛍火はネタバレ感想ブログ、SILENT HILL fは日本語版Wikipedia準拠。対応づけは筆者の考察)

『蛍火』では、月が弔われない亡者たちのために地獄に残り、幸人・輝美・輝也が現世へ戻ります。『SILENT HILL f』の真エンドでは、日本語版Wikipediaによると、怒り狂う九尾の狐を鎮めるために常喜寿幸がその場に残り、二人の雛子は彼と再会を約束して脱出します。その後、呪いから解き放たれた寿幸から手紙が届くため、寿幸の場合は月と違って現世とのつながりが保たれていますが、「誰かが異界の怒りや悲しみを引き受け、主人公側が先へ進む」という形は共通しています。

月は、居場所がないと感じ続けてきた人物でした。ネタバレ感想ブログの一つは、月が地獄で人々を弔うという居場所を見つけたことを「すごくしっくりきた」と評しています。寿幸もまた、呪いによって雛子に執着させられてきた人物です。どちらも、自分を縛ってきたものから解放される形で、異界に残る選択をしているとも読めます。

両作の違い

共通点が多い一方で、両作には大きな違いもあります。

時代と主人公

『SILENT HILL f』は1960年代の昭和を舞台に、高校生の少女・雛子を主人公にしています。一方の『蛍火』は、スマホゲームや平成になってから建てられた公民館が登場する現代の物語で、主人公は26歳の無職の青年・幸人です。『SILENT HILL f』が昭和の価値観の中で生きづらさを抱える女性を描いたのに対し、『蛍火』は現代の家族のひずみと、社会から離れてしまった若者の立ち直りを描いています。

地獄は外にあるか、心の中にあるか

『蛍火』の地獄は、村そのものが異界に変わったもので、一行が共通して体験する「外の世界」として描かれています。これに対して『SILENT HILL f』の霧の町と闇の社殿は、Game8が雛子の精神世界と解釈しているように、雛子の心の中の出来事として読むことができます。日本語版Wikipediaによると、闇の社殿で操作する雛子は、雛子の深層意識の中で「寿幸の求愛に応えたい部分」が分かれた別人格です。『蛍火』が家族みんなで地獄をさまよう物語なら、『SILENT HILL f』は一人の少女の心が二つに裂かれる物語だといえます。

07th Expansion作品とのつながり方

『蛍火』は、竜騎士07作品の世界とつながった作品でもあります。日本語版Wikipediaによると、鷹野美代子は『ひぐらしのなく頃に』の鷹野三四と容姿や設定がよく似ています。また、竜騎士07によるプロローグ小説には、『うみねこのなく頃に』の魔女ベルンカステルとラムダデルタが登場し、ラムダデルタが鷹野美代子を駒として選ぶ設定になっています。鷹野が迷い込んだ年が、『ひぐらし』の舞台と同じ昭和58年であることも、ファンにとっては意味深な一致です。

一方、『SILENT HILL f』は『サイレントヒル』シリーズの作品であり、竜騎士07の他作品のキャラクターは登場しません。『蛍火』が「頃に」シリーズの世界の中にある作品だとすれば、『SILENT HILL f』は、竜騎士07が自分の作品世界の外で、同じテーマを描き直した作品だといえるかもしれません。

まとめ

  • 『蛍火の灯る頃に』は竜騎士07原作・小池ノクト作画の全4巻の漫画で、祖母の葬儀で訪れた村が霧に閉ざされた「地獄」に変わるサバイバルホラー
  • KONAMIの岡本基プロデューサーは、竜騎士07を起用する前に『蛍火』を読み、「霧に包まれた村で人々が翻弄される物語」から『サイレントヒル』を任せられると確信したと語っている
  • 霧と頭痛、家の儀式、怪物になる親、正体を隠した案内人、信仰による「境界の町」、「これからどう生きるか」による救い、異界に残る者という点で、両作はよく似ている(筆者の考察)
  • 違いは、現代の青年と昭和の少女という主人公、みんなで体験する外の地獄と、精神世界とも読める『SILENT HILL f』の異界、07th Expansion作品とのつながりの有無
  • 『SILENT HILL f』が『蛍火』をもとにしたという公式の発言は確認できていない

『SILENT HILL f』の霧に心をつかまれた人にとって、『蛍火の灯る頃に』は、竜騎士07がその数年前に描いた、もう一つの「霧の村」の物語です。全4巻で完結しているので手に取りやすく、読み終えたとき、戎ヶ丘の霧の向こうに、平坂村の蛍火が重なって見えるかもしれません。

参考:07th Expansion公式サイト「お仕事」作品紹介、日本語版Wikipedia「蛍火の灯る頃に」「サイレントヒルf」、版元ドットコム「蛍火の灯る頃に(4)」、ダ・ヴィンチweb「一晩あけると、村が“地獄”に変貌していた――。」(2018年11月5日)、ファミ通.com「『サイレントヒルf』国内独占インタビュー」(2025年7月26日)・「『サイレントヒルf』竜騎士07インタビュー」(2025年12月30日)、YouComic「蛍火の灯る頃に(最終回)4巻の結末ネタバレ!」、漫画の感想と日々のあたし「蛍火の灯る頃に」、Game8「サイレントヒルf攻略」