『無職転生 〜異世界行ったら本気だす〜』は、理不尽な孫の手による長編ファンタジー小説です。その世界で、ある名前を知らない者はいません。約500年前に魔族を率いて中央大陸に攻め込み、人族を滅亡寸前まで追い詰め、約400年前に封印された魔神ラプラス。人族にとっては最悪の侵略者であり、魔大陸では今も子供たちが真似をする英雄であり、ルイジェルドにとっては一族を悪魔に変えた仇です。ところが物語が進むにつれ、この名前はまったく別の顔を見せ始めます。ルーデウスの桁外れの魔力の出どころ。七大列強の頂点に立つ謎の「技神」。そして、龍神オルステッドがヒトガミにたどり着くために、どうしても殺さなければならない相手。ラプラスは本編にほとんど姿を見せないまま、物語のあらゆる謎の根元に座っている人物です。本記事では、外伝「古龍の昔話」で描かれた若き日の姿から、魂の分裂、ラプラス戦役、スペルド族の呪い、ルーデウスに宿る因子、そして80年後の復活に向けたオルステッドの計画まで、原作の記述に沿って整理します。

ネタバレ注意:この記事は『無職転生』の原作(Web版本編・Web版外伝「古龍の昔話」・蛇足編)を結末まで扱います。ラプラスの正体、魔神と技神の関係、スペルド族の呪いの真相、ルーデウスの魔力の秘密、オルステッドの最終目標、ヒトガミとの戦いの行方など、核心部分を伏せずに記述しています。アニメで追いかけている方は、その先の展開を知る覚悟のうえでお読みください。

出典に関する注記:物語の流れと台詞は、「小説家になろう」に掲載されているWeb版本編・外伝「古龍の昔話」・蛇足編の本文で確認しました。本文中の「Web版第○話」は作中の話数表記で、書籍版とは加筆や掲載順の違いがあります。オルステッドやルーデウスが推測として語っている事柄は、確定情報と区別して「〜と推測している」と書いています。また、外伝「古龍の昔話」には「技神」「分裂」という語は出てこないため、外伝の語り手と本編の技神を結びつける記述は本記事の読み解きとして示します。記事内の図解は本記事用に作成した概念図で、公式の設定資料ではありません。

ラプラスとは何者か|基本情報

項目内容
本来の姿魔龍王ラプラス。初代五龍将の生き残りで、魔族と龍族の混血(Web版第167話「説明」、外伝「古龍の昔話」)
名付け親龍神(オルステッドの父)。魔界の端で死にかけていたところを拾われ、「ラプラス」と名付けられた(外伝第2話)
外見外伝では、白(銀)と緑のまだらの髪、金の瞳、翼を持ち、背丈は2メートルを超える。本編では「ラプラスの髪も緑だった」とヒトガミが語る(Web版第60話)
二つの半身闘神との戦いで魂を割かれ、「人の存在を憎悪する『魔神』」と「神を打倒せんとする『技神』」に分かれた(第167話)
七大列強1位「技神」と4位「魔神」がどちらもラプラス。七大列強という序列そのものを作ったのが技神
魔神としての経歴魔族をまとめて魔大陸を平定し、約500年前にラプラス戦役を起こす。約400年前に七英雄の強襲を受けて封印された
本編時点の状態魔神は肉体を封印され、魂は「転生法」で未来へ送られている。約80年後に復活する予定。技神は行方不明
本編との関わりスペルド族の迫害の原因、ルーデウスとシルフィの魔力の出どころ(ラプラスの因子)、オルステッドがヒトガミに至るための最後の秘宝の持ち主

本編のラプラスは、ほぼ「語られる存在」です。歴史書の中で、ルイジェルドの告白の中で、ペルギウスの憎しみの中で、オルステッドの説明の中で、少しずつ輪郭が描かれていきます。本人が主役として動くのは、外伝「古龍の昔話」だけです。まずはその外伝から見ていきます。

若き日のラプラス|外伝「古龍の昔話」が語る魔龍王の生い立ち

外伝「古龍の昔話」(全23話)は、龍鳴山の中腹にある一軒家で、有翼の大男が、世話係の少女ロステリーナにせがまれて自分の昔話を語る、という形式の物語です。語り手は第2話で「こうして私――ラプラスは誕生したんだ」と名乗り、第11話では龍神から「魔龍王」の称号を授かります。本人は冒頭で、自分の人生を「バッドエンド」だと言っています。

魔界の拾い子から五龍将へ

ラプラスは魔界の片隅で生まれました。親の記憶はありません。白と緑のまだら模様で、じっと見ていると模様が動いて見える髪は魔族たちに不吉がられ、「化物」と呼ばれて追い払われる日々でした。魔物に致命傷を負って死にかけていたところを、龍界の王である龍神に拾われます。龍神は彼を「魔族と龍族の混血児」と呼び、屋敷に連れ帰って育てることにしました。名前が無いと聞いた龍神の妻ルナリアに促され、龍神が付けた名前が「ラプラス」です。

ルナリアは彼を「私の子」として迎え、ラプラスは後に「彼女は私の母だった」と振り返ります。教育係は甲龍王ドーラ。厳しい戦闘訓練と飛行訓練を経て、ラプラスはドラゴンの調教師として頭角を現します。調教に失敗した小さなレッドドラゴンに名前を付け、共に断食し、心を開かせたのがこの頃で、そのドラゴンが後の「赤竜王サレヤクト」です。本人は、この時期を人生で最も幸福だったと語っています。

転機は、五龍将の一人である剛龍王クリスタルが殺された事件でした。ラプラスは犯人探しを任されますが、10年かけても成果が出ず、「無能な混血」と陰口を叩かれるようになります。

ヒトガミの最初の「助言」

追い詰められたラプラスの前に現れたのが、人の世界の神を名乗る人神でした。人神は龍神の古い友人として振る舞い、ラプラスの肩に手を置いて、こう教えます。君は背後の敵や、その場にいない敵の気配を感じたことがないか。それは君の眼の裏側にある「魔眼」の力だ、と(外伝第10話「人の神の助言」)。

言われたとおりに眼の裏に意識を向けると、今まで無意識に使っていた力がはっきりと自覚できました。ラプラスはその魔眼で痕跡を追い、犯人の魔族を突き止め、部下2人を失いながらも捕らえます。この功績で、彼は龍神から「魔龍王」の称号と五龍将の地位を授かりました。魔族と龍族の融和の象徴として、神々の会議にも同行するようになります。

考察ポイント:困っているときに夢のように現れ、本人も知らなかった才能を教え、それに従うと成功する。この構図は、本編でルーデウスが魔大陸で受けた最初のお告げとほとんど同じです。語り手のラプラスは、この場面を振り返って「人を騙す奴もね、人を安心させるような笑みをするものだ」と少女に言い聞かせています。ただし外伝の本文は、この助言そのものが罠だったとは明言していません。明かされるのは、後に人神が龍界崩壊全体の黒幕だったと自白すること、そして人神自身が「かなり昔から少しずつ種は撒いていた」と語ることまでです。

ラプラスにはもう一つ、後の物語につながる出来事があります。師であるドーラが卵を産んだとき、名付けを任されたのがラプラスでした。彼が付けた名前は「ペルギウス」。後に「魔神殺しの三英雄」の一人としてラプラスを封印し、今も彼の復活を待ち構える甲龍王その人です。外伝第11話の枠物語でも、ラプラスは本に「君の本当の名前は、ペルギウス」と書き残し、転生して記憶を失ったペルギウスに名前を伝えてほしいと願っています。

ルナリアの死と龍界の崩壊

幸福な日々は、ルナリアの出産を境に崩れます。ルナリアは龍神の子を産み、ラプラスはその赤子を抱かせてもらいます。ところが帰宅すると、ルナリアは血まみれで殺されていました。赤子を守って死んだのです。

怒り狂った龍神は、疑わしい者のいる世界へ次々に攻め込みます。獣界、海界、天界、そしてラプラスの生まれ故郷である魔界。ラプラスは龍神の側で戦い、獣界の崩壊には「これほどやる必要はあったのか」と疑問を覚えながらも、その思いを打ち消しました。魔界の崩壊では見届け役を命じられ、かつて自分を追い払った魔王と再会し、魔神の赤子を抱いた彼を見逃して人界へ逃がしています。

龍神がさらに人界へ攻め込もうとしたとき、五龍将は龍神を止めることを決めます。ただし、実際に龍神と戦ったのは4人だけでした。ラプラスは後始末の役を割り当てられ、龍神自身からも「お前が戦うことは許さぬ」と言われて、赤子の護衛を命じられたからです(外伝第21話)。4人を倒して消耗した龍神の背後から、人神が胸を貫き、神玉をつかみ出しました。人神は神々を争わせて世界を滅ぼしたのは自分だと明かし、龍界は崩壊します。

死の間際、龍神は我が子に転生の秘術を施し、数万年先の未来へ送り出しました。子の名はオルステッド。そして生き残ったラプラスに、最後の神玉と一つの使命を託します。「奴の正体、奴の居場所、奴の弱点……全てを突き止め、奴を倒す手段を探し、御子へと伝えよ」。本物の人神ではないその敵を、龍神は「ヒトガミ」と仮に呼びました。

龍鳴山の語り手

外伝の枠物語で、ラプラスは長い時間をかけて準備を続けていることが語られます。成長の早い人族に龍族の技術を渡し、改良されたものを回収してさらに改良する。オルステッドに施された術の弱点を補う方法を研究する。自分が死んだときに備えて、各地で見つけた五龍将の末裔に、龍神の神玉の欠片から作った秘宝を与え、世界各地に遺跡を作って研究成果を書き残す。

ヒトガミの正体について、ラプラスは一つの仮説を持っています。六つの世界を作った創造神は無の世界で死んだのではないか。ヒトガミはその死体の力を使い、本物の人神に成り代わったか、取り込んだのではないか。ただし本人が「これは憶測にすぎないがね」と断っています。

枠物語の途中(外伝第12話)で、ラプラスは魔界大帝キシリカの復活を自分の目で確かめ、「戦争が起きる」「その戦争は、奴が裏で糸を引いているようだ」と語ります。そして最終話では、オルステッドの魔力不足を補うために、呪い子の少女ロステリーナの体を魔力を蓄えて他者に渡せるように作り変え、長い眠りにつかせます。最後の言葉は「私はまた戦いにいくよ」でした。

考察ポイント:本編の第167話で、オルステッドは「ラプラスは第二次人魔大戦において、ヒトガミの使徒となった闘神と戦い、その魂を真っ二つに割かれた」と説明します。本編の年代記では、第二次人魔大戦は魔界大帝キシリカを筆頭に魔族が決起した戦争です。外伝の枠物語で、キシリカの復活を確かめて「その戦争に参加するよ」と決め、最終話で「また戦いにいくよ」と去ったラプラスは、まさにこの戦争へ向かったと読めます。つまり外伝は、ラプラスが最後に「一人の人格」として過ごした時間を描いた物語だと考えられます。ただし外伝の本文に「技神」「分裂」の語は無く、両者を直接つなげる記述はありません。

魔龍王から魔神と技神へ|闘神に割かれた魂

本編でラプラスの正体が明かされるのは、ルーデウスがオルステッドの配下になった直後の第167話「説明」です。オルステッドは「『魔神ラプラス』の正体だが……奴は、『魔龍王ラプラス』のなれの果てだ」と告げます。崩壊した龍界を脱出したラプラスは、二代目の龍神として人の世界を放浪し、ヒトガミを倒すための術と技を磨き、才能ある者に伝えてきました。未来に送り込まれたオルステッドに、その力を受け渡すためです。

しかしその歩みは、ヒトガミに阻まれます。図1は、分裂前後のラプラスを整理したものです。

魔龍王ラプラスが闘神に魂を割かれ、魔神ラプラスと技神ラプラスに分かれたことを示す図
図1:ラプラスの三つの顔。分裂の経緯はWeb版第167話のオルステッドの説明、分裂前の姿は外伝「古龍の昔話」に基づきます

オルステッドの説明によれば、二つに割かれたラプラスは記憶を失い、それぞれが元の人格の一部だけを持って生き延びました。

  • 魔神ラプラス:龍としての力を失い、「人」を殺さなければならないという目的と、膨大な魔術の知識だけを覚えていた。そのため人族を絶滅させようと魔族をまとめ上げた。
  • 技神ラプラス:魔力を失い、膨大な技と、それを何者かに伝えなければならないという目的だけをおぼろげに覚えていた。そのため「七大列強」を作り、技の研鑽に努めた。

ヒトガミを倒すという一つの使命が、「人を殺す」と「技を伝える」という二つの歪んだ衝動に割れてしまったわけです。オルステッドがこの事実を知ったのは、古代龍族の遺跡でラプラスが記憶を失う前に書き残した手記を読んだからでした。ルーデウスは、記憶を失ったラプラス自身はその手記を見つけられなかったのだろう、と皮肉に思います。

ラプラスを割いた闘神について、後の第256話「闘神の脅威」でもう一つの事実が明かされます。闘神が身にまとう最強の鎧「闘神鎧」は、ラプラス自身が作ったものでした。オルステッドは過去のループでラプラス本人から話を聞いており、ラプラスは闘神鎧の防御を超える大出力の魔力を当てて中身を一時的に消し飛ばし、鎧から引きはがしたこと、その結果大陸に大穴が開いてリングス海ができたことを語っています。自分が作った鎧を着た敵と戦い、相打ちに近い形で魂を割かれた。ここにもヒトガミらしい皮肉が見えます。

年代の注意:Web版第17話「言語学習」で、ルーデウスが読んだ人族側の年代記は、第二次人魔大戦を約5000〜4200年前、「魔神ラプラス誕生」を約1000年前としています。分裂が第二次人魔大戦のときに起きたとすると、魔神として歴史に現れるまで数千年の空白があることになりますが、その間のことは本文で説明されていません。年代記はあくまで人族の歴史書で、魔神が表舞台に出た時期を「誕生」と書いたものと考えられます。

魔神ラプラスとラプラス戦役

魔神としてのラプラスは、瞬く間に魔族をまとめ上げて魔大陸を平定し、長い年月をかけて統一魔界帝国を作りました。年代記は「今もなお、ラプラスは魔大陸のアイドルなのだ」と書き、ルーデウスは魔大陸の子供たちがラプラスの物語を真似して遊ぶ姿を見ています(Web版第35話)。ルイジェルドの話の中でも、ラプラスは「魔族を統一し、人族から魔族の権利を勝ち取った英雄」として紹介されます。人族にとっての侵略者は、魔族にとっての解放者でもありました。図2は、龍界時代から80年後の復活までを年表にしたものです。

龍界時代から約80年後の復活予定までのラプラスの年表
図2:ラプラスの年表。年数はWeb版第17話の年代記の記述、龍界時代は外伝「古龍の昔話」、本編以降は第167話・第211話・蛇足編に基づきます

約500年前、ラプラスは海族と獣族を説得して中央大陸へ攻め込みます。これがラプラス戦役です。南から侵攻して人族の戦力を南部に集め、中央大陸にレッドドラゴンを放って山を通れなくし、北から攻めて人族を分断する。人族はそれまでとは比べものにならない苦戦を強いられました。

約400年前、追い詰められた人族の側で、七人の英雄が海族を説得して海路でミリス大陸へ渡り、獣族を味方に付けます。決戦の日、アスラ王国が総力を挙げて戦う間に、七人の英雄はミリス聖騎士団と獣族を率いてラプラスの本陣を強襲しました。英雄のうち4人が死亡しましたが、ラプラスの側近を全滅させ、魔神を封印することに成功します。生き残った龍神ウルペン、北神カールマン、甲龍王ペルギウスが「魔神殺しの三英雄」と呼ばれ、ペルギウスの功績をたたえて現在の暦「甲龍歴」が使われるようになりました(Web版第144話)。歴史書を読んだルーデウスは「……殺してねーだろ」とつぶやいています。

戦役の爪痕は、本編のあちこちに残っています。

  • 不死魔王アトーフェ:ラプラス戦役の前に魔神ラプラスの手で復活し、ラプラス側の魔王として名を轟かせた。戦後、北神カールマンに敗れてその軍門に下ったと言われている(Web版第151話)。
  • 不死身の魔王バーディガーディ:アトーフェの弟。戦役では穏健派に属し、キシリカ城で魔神ラプラスと戦って敗れた(間話「出会ってしまった二人」)。本人いわく「一撃で体のほとんどを消滅させられ、復活にかなりの時間を要した」(Web版第80話)。
  • 七大列強の崩壊:技神を除く当時の七大列強は全員が戦役に参加し、3名が死亡、1名が行方不明、1名が封印(魔神)という結果になった。以後、七大列強の名は廃れていった(Web版第43話)。
  • ペルギウスの執念:戦役で4人の親友を失ったペルギウスは、空中城塞に籠もってラプラスの封印が解けるのを待ち続けている。目的はただ一つ、復活直後のラプラスに今度こそ確実な止めを刺すこと(Web版第19話)。

スペルド族の呪いとルイジェルド

ラプラス戦役の最大の被害者は、ラプラスに最も忠実だった種族でした。スペルド族の戦士団は、極めて早い段階からラプラスの配下となり、親衛隊を務めていました。ルイジェルドはその戦士団のリーダーです。図3は、スペルド族を含め、ラプラスをめぐる人物関係を整理したものです。

魔神ラプラスとスペルド族・ルイジェルド・三英雄・ペルギウス・オルステッド・ルーデウスなどの関係を示す相関図
図3:ラプラスをめぐる人物関係。矢印は「主語→目的語」の向きで、点線は復活後に向けた構えや予定を示します(Web版本編・蛇足編から整理)

悪魔の槍

ルイジェルドの話では、戦役の中期、ちょうど中央大陸への侵攻が始まったころ、ラプラスは一本の槍を持って戦士団を訪れます。見た目はスペルド族の三叉槍と同じですが、黒く禍々しい魔槍でした。槍はスペルド族の魂であり、それを捨てることに反対する者もいましたが、主君の用意した物です。ルイジェルドは忠誠の証だと信じ、全員にその槍を使わせました(Web版第23話「信用の理由」)。

「悪魔の槍」は身体能力を数倍に引き上げ、人族の魔術を無効化し、圧倒的な全能感をもたらしました。しかし血を吸うほどに使い手の魂を黒く染め、戦士団はやがて敵味方の区別を失って、子供であろうと容赦なく襲うようになります。故郷の集落が襲われていると聞いて戻った戦士団は、その集落を襲いました。ルイジェルドは親を、妻を、姉妹を殺し、最後に息子を刺します。戦いの最後に息子が槍を折った瞬間、夢は終わり、悪夢が始まりました。

正気に戻ったルイジェルドは仲間の槍をすべて折り、討伐軍の包囲を突破して、ラプラスへの復讐を誓います。そして三英雄とラプラスの最終決戦に加勢し、一矢報いました。後にザノバは、ペルギウスから聞いた話として、この場面を「ペルギウス様方に助太刀をしてくれた、あのルイジェルド殿」と語っています(Web版第152話)。しかし戦いが終わっても、スペルド族への恐怖と迫害は消えませんでした。ルイジェルドは、ラプラスがなぜ槍を渡したのかを知りません。ルーデウスは、戦後の後始末を考えてスペルド族をスケープゴートにしようとしたのかもしれない、と推測しています。

ヒトガミが語った「恐怖の呪い」

槍の正体については、別の説明もあります。ルーデウスが呪子について尋ねたとき、ヒトガミは「あれはラプラスの槍の呪いさ」と答えました。ラプラス自身が「恐怖の呪い」を持っていて、それを槍に移し、緑色の髪をキーにしてスペルド族になすりつけたのだ、と(Web版第60話)。なぜ髪なのかと問われて、ヒトガミは「ラプラスの髪も緑だったからさ」と言います。緑の髪への恐怖と偏見は、幼いシルフィが「緑色の髪を持つ悪い魔族」として同年代の子供たちに泥玉を投げつけられていた理由にもつながっています(Web版第81話)。

考察ポイント:物語の終盤、第244話「疫病」で、この話は大きく反転します。オルステッドは、ルイジェルドの娘がラプラスとの戦いで「最も重要な駒となる」と語り、その理由を「魔神となったラプラスは不死身だが、弱点がある。それを看破し、致命傷を与えられるのは、第三の眼を持つスペルド族だけだ」と説明しました。これを聞いたルーデウスの中で、いくつもの出来事がつながります。ラプラスが呪いを移してスペルド族を滅ぼそうとした理由。三英雄に一段劣るはずのルイジェルドが、ペルギウスも感謝するほどの一撃を入れられた理由。そしてスペルド族が疫病で滅びかけている理由。ルーデウスはここにヒトガミの布石を見て、「どうやら俺たちは、またヒトガミの手で踊らされたらしいですよ」とオルステッドに告げます。ラプラスがスペルド族に呪いを押し付けたのは、自分を殺せる唯一の種族を先に潰すためだった、という読み方が成り立つわけです(ラプラス自身の意図は本文では語られません)。

蛇足編第1話では、オルステッドが過去のループの歴史も明かしています。本来の歴史では、ノルンとルイジェルドの間に生まれる子がスペルド族最後の戦士となり、疫病で倒れた父の意思を継いで人族の側で戦い、ラプラスに止めを刺す。ただし今回はスペルド族が数多く生き残っているため、その子が重い使命を背負うことは恐らくない、とオルステッドは語ります。

技神ラプラスと七大列強

ラプラスのもう一つの半身である技神は、本編ではほとんど何も語られません。ルーデウスが初めてその名を知るのは、エリスとルイジェルドとの旅の途中、聖剣街道で七大列強の石碑を見た場面です(Web版第43話)。ルイジェルドが教えた序列は、1位「技神」、2位「龍神」、3位「闘神」、4位「魔神」、5位「死神」、6位「剣神」、7位「北神」。技神は行方不明で、400年前ですら実在を怪しまれていたといいます。なぜこんな序列を作ったのかというルーデウスの問いに、ルイジェルドは「自分を倒せる者を探すため、という話だったが、詳しいことは知らん」と答えています。

第167話で技神もラプラスだと知ったルーデウスは、第229話で、分裂したもう一方なら対ヒトガミで味方になってくれるのではないか、魔神と合体させて正気に戻せないか、と提案します。オルステッドの答えは「やめろ」「俺は、奴らを仲間にするつもりは無い」でした。オルステッドにとって、ラプラスは魔神であれ技神であれ、ヒトガミに至るために倒すべき五龍将の一人だからです。

考察ポイント:技神が七大列強を作った理由を、オルステッドは「技を何者かに伝えなければならない」という衝動の名残として説明します。一方、ルイジェルドが聞いた噂は「自分を倒せる者を探すため」です。二つを重ねると、記憶を失った技神は、自分が誰に技を伝えるべきかも分からないまま、ただ最強の者を探し続けているとも読めます。本来の受け手は、未来に送られたオルステッドでした。外伝で龍鳴山に住み、「また戦いにいく」と去ったラプラスの姿を知っていると、この序列は、使命の抜け殻のように見えてきます。

ラプラスの因子|ルーデウスの魔力の正体

ルーデウスは幼少期の鍛錬で膨大な魔力を得ました。魔界大帝キシリカは彼を見て「でもお前の魔力量……ラプラスより上じゃぞ」と言い(Web版第35話)、バーディガーディは「魔神ラプラスの魔力総量は歴史上でもトップクラスである」と補足します(Web版第77話)。なぜ人族の少年がそれほどの魔力を持てたのか。答えは第167話で明かされます。

初代龍神は、魂を未来に送り、別の生命体を乗っ取って復活する「転生法」を生み出しました。ただし別の体に魂を入れても拒否反応が起きるため、初代龍神は何人かに己の「因子」を打ち込み、その子孫の肉体をほんの少しずつ変えていくことを考えます。何百、何千という世代をかけて、魂と完全に一致する器を作るのです。ペルギウスもこの転生法で現代に来た一人ですが、幼いうちに転生したため前世を覚えていません。

魔神ラプラスは、正気を失いながらも転生法を覚えていたか、どこかに文献を残していた。そしてペルギウスらに倒されて肉体を封印される前に因子をばらまき、魂を未来へ送った、とオルステッドは推測します。その結果、現代には「高い魔力と魔術の素質を持ち、緑色の髪や、生まれながらに魔眼などを所持している者」が続々と現れ始めました。

  • シルフィエット:因子を持つ一人。オルステッドは「なぜか髪は白いがな……」と付け加える。幼いころの彼女の髪は緑色でした。
  • ルーデウス:「お前もそうだろう。それだけの魔力を内包できる肉体は、通常では生まれんからな」。ただしオルステッドは、魔力を内包できる素質があっただけで、その膨大な魔力はルーデウス自身の努力の賜物だと言います。
  • ルーデウスの転生の謎:オルステッドの過去のループには、ルーデウス・グレイラットという人物は存在しなかった。オルステッドは、それほどの魔力を内包できる体に魂が耐えきれず、本来は死産だったのだろう、そこにルーデウスの魂が滑り込んだのだ、と推測します。

この説明は、ルーデウスにとって救いでもありました。転生法が「本来生まれるはずだった魂の体を乗っ取る」ものだと聞いて、自分も誰かの人生を奪ったのではないかと怯えていたからです。「俺がルーデウス氏を殺していないなら、いいか」。ラプラスの因子の話は、ルーデウスが自分の転生を受け入れる話でもあったのです。

緑の髪の息子|ジークハルト

因子の話は、ルーデウスの家族にも影を落とします。シルフィとの間に生まれた長男ジークハルトの髪は、かつてのシルフィによく似た緑色でした(Web版第235話「命名」)。第197話でペルギウスから「我はラプラスが生まれた場合、貴様の息子であっても食い殺す」と釘を刺されていたルーデウスは、青ざめてオルステッドに確認します。オルステッドは、パックスの死でラプラスの生まれる場所は分からなくなったが、因子はまだ収束しておらず、「50年後なら可能性もあるが、どうあがいても、今すぐに、ラプラスが復活する事は無い」と保証しました。

それでもルーデウスは、ペルギウスに息子を見せに行きます。もしこの子がラプラスだったらどうするのかと問われ、彼は「戦います」と答えました。80年後にラプラスと戦うために各地を回ってきた男が、そのラプラスを守るために戦うと言う。自分でも矛盾していると分かったうえでの答えです。するとペルギウスは、その赤子がラプラスでないことはとうに見抜いていたと明かします。「緑の髪の色合いはラプラスのものとは大きく違う。目の色も違う。魔力も大したことが無い。そして、あの忌々しき呪いもない」。蛇足編第13話では、オルステッドがジークの腕力の強さについて「ラプラスの因子だろうが」と考える場面もあります。

80年後の復活とオルステッドの計画

ラプラスの物語が本編の最終盤で重みを増すのは、オルステッドの最終目標と直結しているからです。オルステッドはヒトガミのいる無の世界へ行くために、五龍将が持つ5つの秘宝を集めなければなりません。第168話「初任務へ」で、彼はルーデウスにこう告げます。「4つまでは可能だが、最後の秘宝はラプラスが持っている。ラプラスの復活は、今から約80年後だ」。図4はこの計画を整理したものです。

五龍将の秘宝を集めてヒトガミに至るというオルステッドの計画と、ラプラス復活が問題になる理由を示す図
図4:オルステッドがラプラスの復活を待つ理由。五龍将の顔ぶれと生死はWeb版第212話のルーデウスの整理(推測を含む)に基づきます

第256話でオルステッドは「ヒトガミの場所に至るために、五龍将は全て殺し、秘宝を取り出さなければならない」と明言しています。ラプラスがヒトガミと戦い続けた最後の志士であっても、ペルギウスがルーデウスの友人であっても、例外はありません。

なぜ「80年後」が問題なのか

第211話「ザノバの選んだ道」で、オルステッドはさらに詳しく語ります。ラプラスは復活した後、しばらく潜伏してから仲間を集めて戦争を起こす。配下を倒しつつラプラスを仕留めるには多大な労力と魔力がかかり、その直後にはヒトガミと戦わなければならない。しかもラプラスの復活時期は、オルステッドのループの終わりに近い時期にほぼ決まっていて、早めることはできない、と。オルステッドは呪いのせいで魔力がほとんど回復しないため、ラプラス戦で消耗すれば、ヒトガミとの決戦で力が足りなくなります。

これまでのループでは、オルステッドはラプラスがどこで生まれるかを把握していました。シーローン王国のパックスが共和国を作り、その重鎮となるボルト・マケドニアスの子孫から魔神ラプラスが生まれる。ところが今回のループではパックスが死に、「ラプラスがどこから生まれるかはわからなくなった」のです。ルーデウスは、オルステッドが長いループの中で「乱数調整」のように条件を整え、ラプラスが一点で生まれるように仕向けてきたのだろうと考えます。第244話でも、生まれた瞬間のラプラスは不死身ではないことが語られており、ルーデウスは、オルステッドが赤子のうちに特定して殺そうとしていたのだろうと整理しています(第212話)。

そこでザノバが出した案が、ラプラスを倒せる人材を今のうちから集め、仲間にしておくことでした。ルーデウスはこれを採用し、「オルステッドの軍隊」を作ることを決めます。以後の彼の仕事は、各国の権力者や強者に80年後の戦争への協力を呼びかけることになります。後日談の人物録は、ルーデウスがザノバ、クリフ、ミリスの神子、アリエル、死神ランドルフ、ドルディア族、不死魔王アトーフェらと友好を持っていたと記しています(ただしアトーフェについては、後述のとおり対ラプラス戦への協力は求めていません)。剣の聖地の剣王ニナの視点で描かれた間話では、ルーデウスが「龍神オルステッドはあなたの味方です!」と営業トークさながらに勧誘し、「80年後に戦いが起きる」と言われてもピンとこない面々が戸惑う様子が描かれています。

  • ナナホシの帰還計画:元の世界へ帰る実験がうまくいかなかったナナホシは、ペルギウスの精霊の力で時間を止めて眠り、ラプラスの復活に合わせて目覚める道を選ぶ。ルーデウスは「ラプラスは予定通りなら80年後、最低でも50年後に復活する」と整理している(Web版第237話)。
  • 蛇足編での呼び名:オルステッド視点の蛇足編第13話では、この戦争を「80年後にある第二次ラプラス戦役」と呼び、ここでの消耗をできる限り減らすことがヒトガミ打倒につながる、と考えている。
  • アトーフェの立場:オルステッドの知る未来でも、アトーフェはまず間違いなくラプラス側につく。そのため説得はしない方が無難、とされた(Web版第232話)。

ヒトガミにとってラプラスは敵か、駒か

ラプラスは、ヒトガミと最も長く戦ってきた存在です。それなのに本編では、ヒトガミの計画に都合よく使われているように見える場面が何度もあります。

第199話でオルステッドは、「ヒトガミにとって、ラプラスは消えて欲しい相手だ」と語ります。一方、第244話でスペルド族の疫病の真相に気づいたルーデウスは、「ヒトガミにとって、魔神ラプラスというのは、生きていた方が都合がいいみたいですね」と言います。そして、魔龍王ならまだしも、ヒトガミのことを忘れて人を滅ぼそうとしている魔神ラプラスはヒトガミにとって害がない、案外ラプラス戦役のころもヒトガミの使徒経由で操られていたのかもしれない、と考えます。

考察ポイント:この二つの見方は、分裂の前後で分けると矛盾しません。ヒトガミの正体を探り、オルステッドに力を渡そうとしていた魔龍王ラプラスは、ヒトガミにとって明確な敵でした。だからこそ闘神という使徒をぶつけた。しかし割かれた後の魔神ラプラスは、記憶を失って人族と戦争をするだけの存在です。ヒトガミにとっては、オルステッドの魔力を削る「消耗戦の相手」として役に立つ。第244話でルーデウスが読み解いたヒトガミの勝ち筋は、ラプラスを倒す鍵となるスペルド族を根絶やしにし、ラプラスをオルステッドにぶつけて多大な魔力を使わせること、でした。ヒトガミ打倒のために生きた男の半身が、ヒトガミを守る盾として使われようとしている。ここにラプラスという人物の最大の悲劇があります。

もう一つ、ラプラスとルーデウスの対比も見逃せません。どちらもヒトガミの助言で才能に目覚め、恩人のために働き、やがてヒトガミの本性を知って敵対した人物です。ラプラスは一人で数千年を戦い、最後は魂を割かれました。ルーデウスは未来の自分の日記という警告を受け取り、オルステッドと手を組み、家族と仲間を増やしながらヒトガミと戦いました。そして因子という形で、ラプラスの力の一部がルーデウスの体に流れ込んでいます。ラプラスが果たせなかった「オルステッドに力を届ける」という役目を、結果的にルーデウスが引き継いだ、と読むこともできます。

物語の結末とラプラス

本編でも蛇足編でも、ラプラスの復活と第二次ラプラス戦役は描かれません。ヒトガミ最後の使徒バーディガーディとの戦いを終えた後も、ルーデウスは第261話「34歳」で、ヒトガミの襲撃を警戒しつつ「以前と同じように、対ラプラスに向けての準備を続けている」と語り、ラプラスが使うであろう戦略や戦術への対策を各国の軍部に指導しています。

一方で、バーディガーディ戦にはオルステッドも加わり、ルーデウスは、オルステッドがラプラスとヒトガミのために温存していた魔力を使ってしまったことを気にかけています(第259話)。本編の後日談として書かれた間話「アスラ王国人物録『ルーデウス・グレイラット』」は、ルーデウスが甲龍暦407年に生まれ、481年に亡くなったこと、そして龍神オルステッドの配下として各地の勢力と友好を結び、「80年後に復活するラプラスに備え、世界を一つにしようとしていたとされる」ことを記しています。ルーデウス自身、戦力集めを決めた第212話の時点で「恐らく、戦いが始まる前に、俺の寿命は尽きる」と考えていました。彼は、自分の生きているうちには訪れないであろう戦争のために、生涯をかけて準備を続けたことになります。

最終話「死後の世界」で、ヒトガミは死後のルーデウスに、君がいない世界で、君が用意したものを使って僕が勝つ、と告げます。ルーデウスの用意したものの中心には、80年後のラプラスとの戦いに向けて集めた仲間たちがいます。それがオルステッドを支えるのか、ヒトガミに利用されるのか。答えは原作の外に委ねられています。

まとめ

  • 正体は魔龍王ラプラス:魔族と龍族の混血で、龍神に拾われて名付けられた初代五龍将の一人。龍界崩壊後は二代目の龍神として、ヒトガミを倒す術と技を磨き続けた
  • ヒトガミとの因縁は外伝から:若き日のラプラスも人神の助言で魔眼に目覚めている。後に人神は龍界崩壊の黒幕だと自白し、龍神はその敵を「ヒトガミ」と仮称した
  • 魂は二つに割かれた:第二次人魔大戦でヒトガミの使徒となった闘神に敗れ、人を殺す衝動を持つ「魔神」と、技を伝える衝動を持つ「技神」に分かれた(第167話)。七大列強1位と4位はどちらもラプラス
  • ラプラス戦役とスペルド族:魔神は約500年前に中央大陸へ侵攻し、約400年前に三英雄らに封印された。親衛隊だったスペルド族は悪魔の槍で狂わされ、恐怖の呪いまで押し付けられた
  • 第三の眼が鍵:不死身の魔神の弱点を見抜き致命傷を与えられるのはスペルド族だけ(第244話)。スペルド族の迫害と疫病の裏にはヒトガミの布石がある
  • ラプラスの因子:魔神が封印前にばらまいた(とオルステッドが推測する)因子を、ルーデウスとシルフィは受け継いでいる。膨大な魔力の器はそのためで、魔力そのものはルーデウスの努力の成果
  • 80年後の復活:最後の秘宝を持つラプラスは約80年後に転生で復活する。オルステッドは秘宝を得るために殺す必要があり、その消耗を減らすため、ルーデウスは生涯をかけて仲間を集めた
  • 決着は原作の外:第二次ラプラス戦役もヒトガミとの最終決戦も、本編・蛇足編では描かれない。ラプラスの物語は、ルーデウスの死後に続く未来として残されている