こんにちわ!
ドラマ、ウィッチャーの撮影も好調ということで、
ウィッチャーの世界観を紹介すべく、更新を再開します。
今日は、ウィッチャーの世界観を支える怪物紹介シリーズです。
呪われた子。ストリガとはまた違った形。
ボッチリンクについて紹介します。
ボッチリング
雑に埋葬された子どもの成れの果て。
ベッドの下に隠れ、妊婦を衰弱させる。
弱ったところで、襲いかかり、母子ともに殺害する。
ボッチリングの呪いを解くことができると・・・?
以下、ショートストーリーにて解説します。
ショートストーリー
登場人物
男:ノヴィグラドの富豪。
《白髪》:白髪のウィッチャー。
《妖精》:ウィッチャーの技と、魔法を使う少女。
《一角》:トンガリ帽子をかぶった紳士。
幸せの怪物
男の首筋には《妖精》の刃物を突きつけられていた。
「俺はみんなを幸せにしただけだ」何が悪い……、と男は暗闇の中、声を震わせた。
「だいじょうぶ」
《妖精》は氷槍のような声で言った。
「あなたの願いを叶えてあげる」
男の首は真一文字に切り裂かれた。
血が吹き出す。
血が回らなくなり、酸素が脳に届かなくなっていく。
男の命は、意識はそこで終わった。
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男はノヴィグラドで有数の資産家。
彼の銀行口座には、日々多くの金が振り込まれていた。
皆、男への感謝と男との契約への報酬だ。
男は先祖代々の資産家かといえば、そうではない。
貧民街生まれ、貧民街育ち。
貧民の代表選手のような男だった。
そんな貧民である男は、やはり、貧民である女と結婚した。
結婚。
といっても事実婚だ。
貧民街において、制度上の結婚などという契約行為はなにも意味をなさない。
男が家を長く開け、飲んだくれて、悪友と悪い遊びとして過ごし、帰ってくると、
やはりというべきか、妻は強姦され、望まない子を授かっていた。
貧民街ではよくある話だ。
育ての父と母が生物学上の父と母であることのほうがめずらしいかもしれない。
それでも産むと話を聞かない妻に、男は産ませることにした。
そして、産んだあと、その子を破棄した。
月がきれいな夜だった。
いつもゴミを捨てるように、ゴミのように捨てた。
自分以外の子を授かるだなんて、とんでもない売女だ。
男はそれから妻を抱いた。
欲情すれば、時間と場所を考えず抱いた。
入れて、出した。
欲望と怒りのはけ口とした。
それだけできれば十分だった。
が、しかし。
ほどなくして、男の妻は男の子を授かった。
孕ませた満足感からか、男はそれからというもの、妻にやさしく接するようになった。
身勝手なものである。
しばらくして。
男の妻はみるみる衰弱していった。
学のない男からみても、異常だとわかるほどだった。
異常がないことが異常だった。
体に目立った異常はない。
流行り病のように吐血するわけでもない。
ネズミに囓られたわけでもない。
ただ衰弱していった。
このままでは、妻も子も危ない。
身勝手な男は、身勝手なりに、身勝手に心配し、狼狽していた。
借金をしてまで、高価な薬を妻に与えても、効果がなかった。
数週間。
男が困り果てていると、白髪の男が現れた。
男はそれが、人の形をしているけれど、ひと目で人ではないとわかった。
《白髪》が印を結ぶと、ベッドの下から怪物が現れた。
怪物は、赤子がグールと化したような姿だった。
貧民街に住んでいれば、恐ろしい目にあったことは一度や二度ではない。
しかし、今、目の前にある恐怖は、人が人に対する脅威とは種類が違うものだった。
捕食。
潜在的な、本能的な恐怖。
男は腰を抜かし、その場から動けなくなった。
震え、失禁し、目をつぶり、硬直していると、
「抱け」
《白髪》の声がした。
(抱け?)
意味がわからなかった。
「落ち着いて、抱きしめろ」
興奮させれば凶暴化する、と付け加えられ、怪物を膝の上に置かれた。
「・・・凶暴化したら」
男は怯えながら確認する。
「頸動脈を切り裂かれおまえは死ぬ」
淡々と答えは返ってきた。
逆らうべきじゃない。
こちらもやはり、本能的に解釈した。
いま抱えている赤子が怪物なら、《白髪》も化物なのである。
人間である男からしたらどちらも脅威そのものだった。
しかし、それだけではない。
男は、怪物を、赤子を抱きしめると、わかってしまった。
これは自分の子だと。
なぜ、妻が強姦され妊娠した子をあんなにも「産む」ときかなかったのか、を。
男が悪友と、鬱憤を晴らすために、女をさらい、強姦した中に、
自分の妻がいたのだ。
あるいは、悪友の悪巧みだったのかもしれない。
男は、自分の妻を強姦しながら、酒のせいか、薬のせいか、暗闇のせいか、
それが妻だとさえ気づかなかった。
しかし、妻はきづいていた。
自分がしていたことも、したことも。
すべて理解した上で、産みたいと言っていたのか。
目頭が熱くなる。
気づけば、男は怪物を、赤子を、自分の子を強く抱きしめていた。
すると、怪物、ボッチリングは、その体を光体と変え、家の空気に溶けるように消えた。
男が茫然自失している間に《白髪》の姿はなくなっていた。
我に返ると、ベッドの妻に目をやる。
穏やかに寝息を立てていた。
我が子を抱くような姿で。
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《白髪》が訪れ、怪物が消えて以来。
男の家には幸運が続いた。
男はどんどん豊かになっていった。
貧民街から市街地へ気づけば、富裕層の仲間入りをしていた。
できすぎている。
懐に余裕ができれば、心にも余裕ができるものだ。
男は、自分の幸運について疑いをもつようになった。
なぜ、こんなにも幸運が続くのか。
男は探偵を雇い、調べさせることとした。
わかったこと。
《白髪》が解呪してくれた怪物はボッチリングという
怪物であったということ。
そして、ボッチリングは解呪することで、ラバーキンになり
その家に幸運をもたらせる、ということ。
男は知った。
いまの幸運は、あのときの怪物、赤子。我が子のおかげなのだと。
男は、我が子に感謝しつつ、この幸運をみんなにも分けてあげたいと思った。
不意に、悪友との悪い遊びについて思い出す。
ひどいことをした記憶。
ひどいことをした自分。
ひどいことをされた妻。
俺はもうあんなことをする人間ではないし、あんなことをする人間は人間ではない。
化物だ。
すべては、貧困が招いた悲劇。
そう考えると、すこし気持ちが楽になった。
みんなが豊かになれば、あんな悲劇は起こらない。
人間は化物にならないですむ。
男は、みんなを幸せにする方法を考えた。
ここで、男にはいろいろな選択肢があっただろう。
月並みだけれど、慈善活動をするでもよかった。
しかし、人間は自分の経験の、記憶の積み重ねでできているものだ。
男は取ってはいけない手段を選んだ。
その手段とは・・・
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喉を掻っ切られ倒れた男。
《妖精》の後ろから、トンガリ帽子の紳士《一角》が現れる。
《一角》がポータルを作ると、男の死体はそれに飲み込まれた。
「これでいいのかい?」《一角》は言った。
「ええ、ありがとう」《妖精》は応えた。
「あの男はこれから、自分がやったことがどういうことかを知るの」
《一角》は、ポータルを閉じると、
「君もひどいことをさせるね。これじゃあ、まるで呪いじゃないか」
「ひどくなんてないわ!」《妖精》は頬を膨らませて抗議する。
《一角》は《妖精》の頭を撫で、「そうしていると、昔を思い出すよ」と笑う。
《妖精》は、《一角》の手を払い除け、
「それにね」
「これが呪いか、祝いかは、彼が決めること」
いくわよ、と《妖精》は《一角》に指示すると、
「はいはい」と、《一角》はポータルを出現させ、ふたりはその中へと消えていった。
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男は目を覚ました。
腐臭。
おかしい、俺は死んだはずじゃ・・・。
切られたはずの喉に触れようとするが、触れることができない。
首を動かすこともできない。
月。
きれいな月夜だ。
いつも見上げる空より月が遠くに見える。
けれど、見覚えがある月だった。
次に視界に写ったのは、見覚えのある顔。
自分だった。
あの日捨てた子に、男はなっていた。
つまり。
男はボッチリングになった。
男はラバーキンになった。
男は幸せになった一家を見守った。
ずっとずっと見守った。
もう自分がノヴィグラドで有数の資産家であったことのほうが夢だったのかもしれない。
男は、自分ではなくなった男と自分の妻ではなくなった自分の妻が
亡くなっても、子々孫々見守った。
家族が家族であることをやめるまで。
家族が家族でなくなると、ラバーキンはーー男はーー役割を終え、消滅した。
目が覚めると、男は別人になっていた。
いや、ちがう。
別の怪物になっていた。
別のボッチリングになっていた。
男はボッチリングになり続ける。
男が作り上げた、ボッチリングとラバーキンの数だけ。
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《一角》はポータルからその様子を覗き見していた。
「君は、君なりによかれて思ってやったのかもしれないし、それで幸せになった人も多かったのかもしれないね」
《一角》は、男がしたことを反芻する。
男は、自分の家がラバーキンによって繁栄したあと、
貧民を、貧民街を救おうと考えた。
そこまではよかった。
しかし、方法が悪かった。
男は再現しようとした。
自分の身に起こったことを。
悪友に金を払い、貧民街で子が生まれると、それを誘拐させた。
誘拐させた子をゴミ溜めに捨てさせた。
その後で、ボッチリングの条件を揃えるため、その女を拉致。
妊娠するまで慰み者にする。
誰も貧民の女が消えたところで気に留めやしないのだから。
妊娠したことがわかれば、すぐに家に返す。
そして、その女がボッチリングの呪いで
衰弱したところに、《白髪》のマネをし、男が、その女の旦那と呪いを解く。
ボッチリングをラバーキンに変貌させた。
こうして、幸せの守り神を、ラバーキンを量産し、
貧民が貧民街を脱出することを手伝った。
実際、ラバーキンの恩恵でみんな豊かになったし、
結果的に男に感謝した。
そして、男の銀行口座には、
そういった豊かになった人々からの寄付金が多く集まった。
男はますますやる気になった。
俺はいいことをしている。
疑っていなかった。
ほんとうに良いことだったのかどうか。
ほんとうに【みんな】幸せだったのかどうか。
男は知ることになる。
自分がラバーキンになって。
ボッチリングになって。
「千年じゃ、君の因果は終わらないだろうね」
《一角》は、
「万年たったころに、また顔を出すよ」
といって、「ばいばい」
ポータルを閉じた。
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かくして、
幸せの怪物は一人ボッチになりました。
あなたは、彼は正しかったと思いますか? 正しくなかったと思いますか?
了